さよならの時

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「だめだよ。
せっかくきれいな髪なのに、
そんな手でさわったら。」



泥だらけの手で触ろうとしたら、そう言って止めたのがアイツだった。
自分だって綺麗な金髪を泥で汚してるくせに、俺の髪を汚すのはひどく気にしていた気がする。
なぜかは知らない。
ただ、
ユリの影響があったのは間違いないだろう。ユリは、異端であった俺の銀髪やアイツの金髪をひどく褒めていたから。


***


村塾には高杉のように自ら望んでやって来た者と、望まずに俺のように連れてこられた者と、二種類いた。
ユリは前者。雅はどちらにも当てはまらない、例外だった。
ユリは持ち前の気の強さと明るさで女であると言う事を感じさせず、すぐに村塾に馴染んでいた。
ヅラはもちろん。あまり人と関わらない高杉や俺もユリとは仲がよかった。

ただ、雅は違った。

アイツは、先生の所へ売られたと言う事実を背負っていた。
…正確に言えば、先生の所へ置き去りにされたのだ。

アイツがやって来た日、俺は先生と幕臣の様な男が話しているのを聞いた。
男は、大金を先生に渡してまで雅を村塾へ置きたがっていた。
邪魔にしかならない子を棄てる捌け口を探していたのだそうだ。
そして先生は金を受け取らず雅を引き取った。

雅は非常に目を惹く容姿をしていた。それは今も変わらないのかもしれないが、大人びた表情と長い金髪は、子供の俺達には強い衝撃だった。
だが正直な話、俺は雅に親近感を覚えていた。
変わった容姿と、孤独を先生に救われた事。あまりにも自分と似た境遇の雅に、俺は勝手に似た者同士だと認識していた。

そのあと、確か何かがあった。
何か大きな出来事があって、そこでようやく俺達に馴染んだ。
大きな出来事と言うのは、覚えていない。
ユリが絡んでいたような気がするが、忘れてしまった。
いや、思い出したくないだけなのかもしれない。
ユリの事を考えるのは、自分の中でタブーにしていた。



ユリの様な女は、なかなかいない。



すでに失ってしまったユリを思い出すと、彼女に逢いたくなる。
逢って、また一緒に月見酒でも呑もうと笑ってしまいたくなる。

もう二度と会えないユリに。
雅に殺されたユリに。

ユリを思い出すと嫌でも雅を思い出してす。
そしてユリを殺した雅への憎しみが深まる。














「だめだよ。
せっかくきれいな髪なのに、
そんな手でさわったら。」







そう言った昔の雅と今の雅とが重なって、雅に失望し落胆してしまう。似ていると思っていた雅に、裏切られたように感じる。

だから今までアイツの事は思い出さない様にしていたのに、

どうして、今―――――






***


「いっ…た」

目が覚めた時、そこは自宅だった。

「も〜銀さん!玄関先でなんて寝ないで下さいよ!」

新八がソファの上の俺に怒る。
神楽は寝たのか居ないようだった。

「玄関先…?」
「覚えてないんですか?いきなり出掛けるって言って出ていって、帰ってこないから何かと思ったら玄関で寝てたんですよ!」

運ぶのが大変だったと言う新八だが、俺には玄関で寝た憶えはない。
あいつと戦って、それで――

「……」
「銀さん?」

俺は、何か大切な事を忘れてないか?
ユリと雅に関する、
何か、大切な―――――




















「……ごめんね、銀時。」





















俺は、何かを間違えているのか?

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