さよならの時
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ユリが死んだ時の事を聞きたい…?
……。
いや、いい。
…いつかは聞かれると思っていた。
ただ今とは思っていなかったんだ、だから少し動揺してしまっただけだ。
………悪い。俺とて隠すつもりはなかった。
だが雅が誰にも言うなと言ってな…。
今更言い訳にしか聞こえないのだが、許してくれ。
…あいつは、特にお前の耳には絶対入れるな、と言ってた。…だから言えなかった。
……俺は、多分高杉もだと思うんだが、あんな雅は初めて見たんだ。
あの場にお前がいなかったのは、本当に良かったと思う。
…あいつは、お前にだけはあんな姿は見られたくなかったはずだからな。
……そうだな、
どこから話せばいいんだろうか…
あの日は―――
***
「……やっぱりな」
殺された攘夷志士の身元を調べてみると、ある共通点があった。
攘夷戦争時、
皆ある攘夷党に属していたと言う事。
「……攘夷党、【六華】か……」
この攘夷党、文献が全くと言って良いほど残っておらずここまで調べるのにもかなりの労力だった。
これだけの情報が集まったのは山崎を始めとした監察の力が大きいだろう。特別手当を支給するよう上へ計らってみよう。
「…じゃなくて…雷龍神について調べなきゃなんねーんだよ」
考え過ぎて思考がおかしな方向に傾いているのだろうか。
「あー…くそ」
頭をかきむしり、手元の書類を覗く。
【六華は強者ばかりが集う攘夷党だったらしく、天人も鬼兵隊に続く危険な攘夷党として認識していた。
その武力もなかなかのものだったようだが、雷龍神最大の能力はその並外れた統率力と留まる所をしらない士気の高さだった。
その強さから鬼兵隊壊滅後も存続していたが、党首の死亡により雷龍神はその力を急速に失い、戦争の中で壊滅。】
「……。」
気になったのは一点だけだ。
【党首の死亡により雷龍神はその力を急速に失い】
鬼兵隊に勝る能力を保持・誇示していながら、党首が死んだ瞬間その力を失うとはどう言うことだ?
鬼兵隊に勝る力があったのならば優秀な人物もそれなりに居ただろう。残党の中から新たに党首を立て、戦い続けることは十分に可能だ。それを行わず、党首をその人物にする事にこだわったのは、何故だ?
思い当たる事は1つしかない。
「…高い統率力と士気。そしてそれを治める事が出来たたった1人の人物。
そこから出てくる答えは1つだ。
……六華は攘夷党なんかじゃねぇ。
いや、攘夷党なのは攘夷党だろうが、その存在は異質だ。党首のどんな目的にも意見にも一切異議をたてず、党首の指示に従う兵。軍隊にも近いその集団は、
それはもう、宗教集団だろ?
…六華。それは、闘いの中で逃げ場を探した攘夷志士の末路。
志士を救う、
言わばオアシスだったって訳か」
「ぴんぽんぴんぽーん
正解でーーす」
後ろから唐突に聞こえた声。
どこから入ったのかは検討がつかなかったが、正規の手段は使ってないだろう。
「……なんの関係かは知らねーが、テメーは力をつけてきた六華の奴等がうっとおしくて片付けたって所か?」
「それは不正解」
即答で返す奴の手には、刀が握られていた。
「随分と物騒なもん持ってフラついてんな
ここが何処かわかってんのか?」
「仕方ないでしょ?そこの人たち、通してくれなかったんだもん
…あぁ、総悟くんに免じて斬ってはないから大丈夫だよー」
「総悟が聞いたら泣くぞそれ…」
笑いながら近づく奴に、うすら寒いものを覚えた。
こいつはこんな笑い方をする奴だっただろうか?
「……悪いね、土方さん
あたしの目的のために、あなたには犠牲に…生贄になってもらう」
「はっ…断らせてもらうぜオラァ!!」
刀を抜き、斬りかかる。
雅が笑った気がした。