椿姫

□二
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「…あ〜めんどくせえ、なんでこんな時間に巡察なんか行かねぇとなんねーんだよ…」
「文句言うなよ平助
それに、んなこと言ったって仕方ねぇだろ?土方さんのお達しなんだからよ」
「そうは言っても左之さんだってめんどくせえって思ってるだろ!?」
「…そりゃまぁな」

夜もふけた暗い空の下
浅葱色の羽織を着て歩く男達の中に2人はいた
八番組組長・藤堂平助と、
十番組組長・原田左之助だ

「あ〜…ねみぃ」

あくびを噛み殺す平助に、原田も眠たげに目をしばたいた



***



新選組はもちろん夜も巡察は行っているのだが、この時間に行うというのは異常だった
もちろん、幹部・隊士共に文句が出てきた
しかし、
鬼の副長土方は一切の文句を良しとせず、得意の威圧攻撃で全てをねじ伏せた
それには誰も何も言えなくなり、仕方なく巡察を行うことになったのだ

この不可解な巡察の理由は一つ、


最近京で辻斬りが横行しているからだ


この辻斬りは、時間も場所も人も問わない危険なものだった
土方はこの辻斬りを警戒して、こんな夜更けでも巡察を行わせたのだ。

まぁ、実際は人などいるはずもなく、道には自分達の足音が静かに響いているだけなのだが

「左之さーん。めんどくせぇし、やっぱもう帰ろうぜ。こんだけ廻れば土方さんだって文句言わねーよ」
「……だな。
何もねぇみたいだし、帰るか」

怪しい人物はいない
というより、人がもういない
さっさと切り上げて帰ろうとした

その瞬間だった


















「ギャァアァアァアァ!!!!」













「「!!」」

闇夜を切り裂く絶叫が響く
一瞬動きが止まった一同だったが、こんな事でビビる新選組ではない

「……左之さん
今の、そこの通りからだったよな」
「…行くぞ」

皆はすぐに声が聞こえた通りへと向かう
緊張感に満ちた表情で通りへ出ると――

















「――――なに?」
































細い、声が聞こえた
暗い通りに目を凝らすと、それを見計らったかのように厚い雲から月が顔を覗かせる


「…ん…?」


誰かが声を漏らした
月明かりに照らされ、闇に浮かび上がる
広がる赤と、それを生み出す肉片と化した人そして、
傍らに立つ、椿の着流しの女
手には

長い、刀


























「……………あぁ、そういう事か……」

















困った様に、女は笑った
死体の横で、
広がりつつある血溜まりの中
女はそっと笑ったのだった
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