椿姫

□三
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「岡野!!!」

とある長屋の一室
荒々しく戸が開け放たれ、部屋の中に5、6人の浪士が雪崩れ込んだ

「いねぇ…逃げられたか」
「まだ遠くには行ってねぇだろう
探すぞ!」

バタバタと慌ただしく出ていった浪士に
物がほとんどない部屋には静けさが戻る




















「……人の家に勝手に入っといて、
あの態度はないだろ。ばーか」







……はずだったが、
なんと天井の板が外れ、上から岡野と思われる女が出てきた
スタッと華麗に着地を決めると、着流しの椿の花が揺らいだ

「もぅ用済みってわけか…。」

遠い目をする岡野は浪士が出ていった扉を見つめる

「で、ちー様は何で来たの?」
「……気づいていたのか」
「もちろん」

苦々しい表情の風間の登場も、岡野にとっては予定内だったようで、さして驚いた様子はなかった

「……悪い、これは俺の責任だ」

あの傲慢な鬼の頭領が謝ったのだ、よほど今回のことは悪いと思ったのだろう
だが、岡野は安心させるかのように笑う

「なに言ってんの、ちー様に責任はないよ
私が悪いんだ、全部」
「……」
「私なんだよ、ちー様
私が仕事に失敗した。ただ、それだけだよ」

納得がいかない表情を見せる風間に岡野は苦笑を漏らす

「ちー様にちゃんと仕事を確認しなかった
仕事を確認させなかった私の責任だから、
大丈夫だよ
あんなやつら、すぐ片付けるから」
「…弥恵、」
「平気平気。任せてよ」

風間の横を足取り軽く通り過ぎ、振り返る


「ちー様、ありがと」


足取り軽く彼女は浪士を追い掛けに行った

殺しに行く
足取り、軽く。
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