short story

□100年後もこの夏でいいか
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万事屋の中は太陽照りつける外よりかはマシだったが室内にしては気温が高かった。いつも乱暴に扱われる扇風機も今日は無事だ。強で首を振り続けるが当たる風はどこか生温かいが無いよりはマシだろう。

「…銀さん、返事くらいして下さい」

ソファで寝転がる家主の顔には愛読書のジャンプが被さっていて表情はわからない。夏バテだろうか。風邪をひいたり夏バテしたり、身体は丈夫だが内蔵はそうではないのかもしれない。


「アイス持って来たんで冷凍庫いれますね」
「…おー」

ここまで来てようやく聞けたのが「おー」一言。彼にしては珍しくだいぶ参ってるらしい。

「…えいっ」
「っべた!」

買ってきたガリシャリ君を首筋に当てるとようやくリアクションしてくれた。ジャンプがずり落ちた顔には驚きの表情が浮かんでいた
「一本どうぞ。箱で買ってきたので」
「…おー」
「そればかりですね」
「おー」

ソファに寝転びながらガリシャリ君を食べる彼は完璧に完全に夏バテだ。死んだ魚の目をしてるとは思っていたがこの暑さにどうやら腐りはじめたらしい。早いとこ処理しないと大変な事になりそうだ。

「神楽ちゃんは夏バテ知らずみたいですね」
「おー」
「相変わらず食糧難は変わってないみたいですし。これだと食欲がない方がいいかもしれませんね、ひもじい思いしなくて済むし」
「…おー」

若干不服そうだったが特に何も言わない。そこで思い出した事をいってみた

「銀さん、今年の夏は千年に一度来るか来ないかぐらいヤバめの夏らしいですよ」
「おーマジでか」
「ガチでマジです。そろそろクーラー買わないとキツいっつかヤバイです」
「それは無理だな」

どんだけお金がないんだ万事屋。ガリシャリ君をかじる。冷たい甘さに一瞬暑さを忘れる。ガリシャリ君を半分ほど食べた彼が口を開き始めた

「クーラーないと暑いだろ」
「当たり前です」
「んでー、こんだけ暑いとー何だかんだ言いつつ優嘉がアイス持って来てくれんだろ?」
「まあ、」
「でもクーラーつけたら暑くねぇから、優嘉がアイスもって来なくなる、俺がクーラー買わないのはそーゆー事なんだよ
なんか俺百年だろーが千年だろーがこの夏を愛すわ愛せるわ、アイスだけに」
「…え、えぇ!?」
「渾身のギャグは無視か」

なにを言い出すんだこの人!?しかも真顔って…!寒いオヤジギャグを言われたのに頬は火照るばかりだ

「だからまたアイス持って来て」
「…子供ですか、アイスが目的って」
「ちげぇよアイスだけじゃねーって」

ガリシャリ君を食べ終えた彼は棒を差し出した

「ちゃんとお前も目的だって」
「はぁ?」
「なぁ、ガリシャリ君当たった。交換してきてくんね?」
「こんの…!」

棒を引ったくり万事屋を飛び出す。やっぱり外は暑かったけどさっき以上に暑く感じた。主に顔の辺りが。ぶっちゃけあの発言の真意はわからない。ただたんにアイス目的なのか、それ以外なのか…イカンイカン、どうやら私も暑さにやられたらしい。こんな事を考えるなんて頭がやられた証拠だ。奴も熱で頭が浮かされててあんな事言ったんだ。そうだよ、それしかない

「……。」

だめだ。私いま何で残念って思ったんだろうか。私目的じゃないって言うのがどうして残念なんだ。これじゃまるで私が彼を好きみたいじゃないか。
…まるで私が、彼を、

「変なこと考えすぎ、」

熱に浮かされてるんだ、この猛暑に頭がついていってないんだ、そうに違いない。アイスを買ったコンビニが見えてきた。

「…ほんと、あっつい」


千年に一度の夏はバカにならない。相変わらず日差しはキツいし道端にミミズは干からびてるしで本当に嫌なことしかない。
けど、とりあえずはまぁ彼とガリシャリ君を食べれるというのを恵んでくれたのもこの暑さな訳で。そう考えたら、なんだか百年後もこの夏でいいか。なんて思えてしまったのだった。






テン子様企画のあの雲たべたらうまそうに参加させていただきました。
その提出作品です
ありがとうございました


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