short story

□100年後もこの夏でいいか
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今年の夏は千年に一度来るか来ないかくらいの猛暑らしい。

私に言わせれば千年に一度来るか来ないかなら来なくて良かったのだが千年に一度だろうがなんだろうが来てしまうものは来てしまう。それに呼応するように今年はセミが良く鳴き道端には干からびたミミズが散乱し、町は薄着の女が増えそれと共に変質者も増え負の連鎖しか生み出してなくね?状態だったが、この前見たテレビでは扇風機やらクーラーやら冷たい飲み物アイス浮き輪などの売り上げが例年に増して好調で悪い物しか産み出さないわけではないらしいと言っていた。私ら庶民に経済の金回りについて言われてもわからないなと思いながらアイスを買った。コンビニのアイスコーナーは品薄で、なるほどこう言うことかと理解した。
そして例年にも増して暑いのに相変わらず隣家の万事屋にはクーラーがない。世間ではクーラーが良く売れているがこの家は季節関係なしに火の車によって猛暑なのだ、主に家計が。
それにしたっていい加減買えばいいのに家主はそれを良しとせず未だに一台の扇風機を巡り熾烈な争いを繰り広げている。私も隣人として彼らに同情せずにはいられなかった。その為今日もささやかなプレゼントであるアイス片手に万事屋へと向かっているのだが、たった数十mの距離がツラい。アイスが一瞬で溶けるのではと不安になるほどの暑さは千年に一度と言うだけあり何だかアイスだけでなく私を溶かしにかかっているようだった。日差しと日焼けを気にし、少しでも影のある道の端を歩く。セミが頭上で鳴いている、奴らはどこにいるのだろうか、姿は見えないのに鳴き声だけはよく響く。
そういえば、前に姿は見えないのに声が聞こえるって幽霊みたいですねと彼に言ったら「バカヤロー幽霊とセミを一緒にすんじゃねーよセミ失礼だろうが、そもそもセミは一週間しか生きれうんちゃらかんちゃら」と長々と語っていたが、確実に暑さ以外で汗をかいていたのを私は知っている。

「…怖がりめ」

小さく笑う。この階段を上れば日陰だと考えたら自然と足に力がはいった

ぴんぽーん

「ごめんくださーい林原ですけどー」

汗だくになりながらインターフォンを押す。返事はない。失礼ながら仕事があるとは思っていなかったのだが、留守なのか。いないとすればパチンコだろうか。

ぴんぽーん

「銀さーんいますかー…あ」

引き戸に手を掛ければすんなりと開いた。玄関を覗くといつものブーツが見えた。どうやら子供二人は居ないらしいが肝心の家主は居るらしい。出てきてくれてもいいのに…とぼやきつつ勝手に上がる、まあ大丈夫だろう。私は隣人なのだから。
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