金色ウサギと赤い竜

□第2話
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列車は隣国に入った。



「ウサギはどうしました?」



部屋を見渡してソーントンが訊ねた。

今頃になってウサギがいないことに気づいたようだ。



「逃げちゃったの」



綾はすました顔で答える。

即座にソーントンは列車を一時停止させ、側近にウサギを探すよう指示した。

しかし、これだけ時間が経っていればそう簡単には見つけられないだろう。


数名のトフィー捜索隊を降ろした後、列車は再び走り出す。

目的地はもうすぐそこだ。



「世話するウサギがいなきゃ、私も必要ないでしょう? うちに帰らせて」

「ウサギは必ず探し出します」



ソーントンは真顔で綾の腕を強く握った。

逃がさない、という意思表示だ。

綾の思った通りだった。



「あなたには王女としてクラウス殿下に会い、探っていただきたい事があります」

「嫌、って言ったら…… ?」



掴まれた腕が背中へ回された。

それはつまり、犯罪者になるぞという脅しだ。



「ルナトーンを盗んだ一味、王女の偽物、等々。私の裁量一つです」

「そんな…… !」



綾はソーントンの顔を振り仰いだ。

彼は無表情で綾を見つめ返している。



「あれ以来、クラウス王子と我がプルーデンス王女はよくお会いになられていますから、王女になりすますのも以前のように簡単ではありませんよ。万一バレた時は、王女を騙った罪で死罪になります」

「どうしてそこまでするの」

「私だってしたい訳ではありません。こんな事、王宮秘書の仕事ではないですから」

「だったら、」

「王室のためです」



ソーントンはきっぱりと言い切った。

綾に対しひどい仕打ちをしている自覚はあるが、王室を守る為ならそれも致し方ないと思っているようだ。



「宝石がウサギになったなんて話、本気で信じてるの? それとも、他になにか目的が……」

「他に目的などありません。ですが…… そうですね、しいて言うなら、王女がクラウス王子と結婚して王室を守っていっていただくのが一番の目的です」

「だったら、ルナトーンは関係ないじゃない!」

「ありますよ。あの宝石は結婚の儀にもそして戴冠式にも、必ず身に着けることになっています。王家にとって大切な石なんです」



ソーントンは綾の腕を引きデッキへと向かう。



「さて、お喋りは終わりです。出迎えの方たちに手を振ってください、“プルーデンス王女”」



列車は緩やかにスピードを落とし、駅へと滑り込んだ。
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