金色ウサギと赤い竜

□第3話
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隣国の王宮は、ユニシアとは違い豪奢だった。

太陽を反射して眩いばかりの白亜の城。

宮殿自体は小ぢんまりとしているものの、金色の女神像の噴水のある池やひな壇式の庭園が設えられ、庭園と一体になった風景は素晴らしかった。



「呆けた顔はお止めください。王女は何度もいらしているのに、変に思われます」



ソーントンが顔を寄せて囁いた。

綾は気を引き締める。

宮殿へ一歩入ったら、私はプルーデンスになる。

この国の王室の資料をもう一度頭の中で反芻する。

大丈夫、すべて頭に入っている。



「プルーデンス!」



クラウス王子が飛んできた。

満面の笑みで抱きしめられる。



「驚いたよ! てっきり来るのはソーントンだけだと思っていたのに」



綾は深呼吸をした。

プルーデンスは自由奔放なイメージだけれど、それだけが彼女の全てではない。



「ソーントンばかり会って、ずるいんだもの。結婚するのは私なのに」



綾は悪戯っぽく笑って言い、それから少しはにかんでこう付け足した。



「会いたかったの」



クラウスは嬉しそうに微笑み、綾をもう一度抱きしめた。



「母がいそいで歓迎パーティを準備している。ゆっくりしていってくれ」

「ありがとう」



綾はホッと一息つく。

第一段階はクリアだ。



「そうそう、君にボディガードを用意したよ。ユニシアであんなことがあっただろう? あれからボクはボディガードの必要性を強く感じるようになってね」



クラウスが側近に誰かを連れてくるよう命じた。



「急だったからちゃんとしたのが見つかるか心配したんだが、面白い奴がいたよ。君なら喜んでくれると思う」



側近に連れられて入ってきたのは、袴姿の侍然とした男だった。

さらしを巻いて前を大きくはだけ、足下は素足に雪駄をはいている。



「石川五エ門と申す」



男は短く言い、頭を下げた。

綾が声をあげそうになると、そのままの姿勢で目線だけをこちらに向け、左手の人差し指を口もとに当てて唇をすぼめる。

シーッ。

綾はその通りにした。

クラウスやソーントン達からは死角になっていて、まったく気づかれていなかった。



「彼はすごいよ。銃弾も刀で切り捨てる。彼に任せておけば君は安全だ」



クラウスの自慢げな説明はまったく耳に入らなかった。

綾はただ黙って五エ門を見つめていた。
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