金色ウサギと赤い竜

□第4話
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背後から草を踏む音がして次元は振り返った。

右手は既に銃のグリップを掴んでいる。



「おいおい、俺だ」



ルパンの声がした。



「相棒の足音も分からなくなっちまうほど、なにボーッとしてたんだよ」

「ボーッとなんかしてねぇよ」

「あっ、そうか。考え事だったね、考え事。考え事ね」



そう言ってルパンはニシシと笑う。

帽子の下からねめつけると、相棒は即座に笑みを引っ込めた。



「お前こそ何やってるんだ」



ルパンの左頬が赤くなっているのを見て次元は言い返した。



「どうせ侍女かなんかの風呂でも覗いたんだろう。人が立ちんぼで見張りしてるってのに、いい気なもんだぜ」



さすが相棒、当たらずとも遠からじである。

相手が綾だとは口が裂けても言えないと思うルパンだった。



「見張り、替わるぜ。少し休めよ」



ルパンは立ち位置を次元と入れ替え、綾の部屋の窓を見上げた。

窓にはカーテンが引かれ、中の様子は窺えない。



「で、どうだった」



次元も同じ窓を見上げながらルパンに訊ねた。

ユニシアで次元がプルーデンスに面会している間、ルパンは迷子になっていたのではなかった。

王室の書庫に潜り込み、王室が記録して保管している歴史書を探していたのだ。

しかし、それは既にソーントンが持ち出していて確認ができなかった。

そこで隣国までソーントンを追いかけ、変装を駆使してソーントンの部屋にあった歴史書を盗み読みしてきたのだった。



「まず言わなきゃならねぇのは、あれは伝説なんかじゃないってことだ」

「人間がウサギに化けるのが、事実だって言うのか」

「まぁね。そのカラクリまではわかんねぇが、歴史書の言葉を借りれば『諦観せよ』。つまり『そういう物』だってことさ」



次元は顔を顰めた。

『そういう物だから』と言われて簡単に納得できるほど、頭が柔らかくできていない。

ルパンはそんな相棒の性格を分かったうえで、あえて話を進める。



「解決法については書かれていなかった。ソーントンが隣国を訪れた目的もおそらくは解決法を模索する為だろう。綾に聞き出させたいのは、ルナトーンを取り戻す為のヒントだろうな」

「ユニシアの女王に聞けば済むことじゃないのか」



納得していなくても次元はちゃんと話についてくる。

そういうヤツなのだ。



「女王に知られたくなかったか、もしくは女王も知らないかのどっちかだろう」

「こっちの王宮にそれらしい資料は無いのか」



ルパンは肩をすくめた。

この国は主に口頭伝承、すなわち口伝えでしか歴史が伝わっていないのだった。



「歴史に詳しいばーちゃんを探して、聞いてみたんだけどさ」



ルパンは困ったような顔をして頭をかいた。



「ばーちゃんすっかりボケちゃって、なに言ってるんだか全然わかんねーの! ルーがどうしたとか、俺はカレーの作り方なんか聞いてねぇっての」



二人はそろってため息をついた。

残る頼りは綾が王子から聞き出す情報のみである。



「ところでお前。痛くねぇのか、それ」



と、次元はルパンの抱えているウサギを指差した。

先ほどからずっと、ウサギはルパンの腕を齧っていた。



「もちろん、痛くありまセーン。不二子も俺相手だから、そんなに強く噛んじゃいない。これは、言ってみればキスみたいなもんよ。だから痛くも痒くも…… 痛ェー!」

「痛ぇんじゃねーか」



次元は苦笑いを浮かべた。
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