金色ウサギと赤い竜

□第2話
8ページ/12ページ

コックに促されるままに隣の車両へ移ってきた綾だったが、バスルームの天井を見るなり呆然と立ち尽くした。



「穴、開いてる……」



彼女が指差す先は円形にきれいにくり抜かれており、やや強い風が吹き込んでいた。



「あぁ、それ? 俺が侵入してきたトコ」



背後から聞こえた、コックとはまったく違う声質に驚いて振り向く。

先程までコックだった男が顔のマスクをはがし、変装を解いていた。



「あなた誰…… ?」

「やだなぁ綾ちゃん。俺だよ。ルパン三世」

「ルパン!」



綾の顔に喜びが広がった。



「おい、ロープは結んできたぜ」



天井の穴からひょいと顔を出した次元が車内に飛び降りてくると、綾は両腕を広げて彼に抱きついた。



「次元! 来てくれたのね!」

「再会を喜ぶのは後だ。俺は前、次元は後ろを頼む。綾ちゃん、通信機つけて」



早口にルパンの指示が飛ぶ。



綾は頭の中ですばやく自分の位置を確認した。

列車は6両編成。個室のある御料車は4両目で、今いるのが3両目だ。

次元はウサギを抱いた綾とともに、3両目と4両目の間の連結部分に移動した。



『五エ門、聞こえるか。3両目を切り離すぞ。いいな?』



ルパンの声が通信機から聞こえた。



「ゴエモンって?」



綾が次元を見上げた。



「俺たちの仲間だ。天井を刀で切り抜いた奴さ。今はこの先の分岐点で転轍機のレバーを動かす準備をしている」

「転轍機って…… いったい何をするつもりなの?」

「この車両だけを頂いちまおうって寸法さ」



次元は列車の進行方向を見た。

分岐点が迫っている。



「2両目と4両目をロープでつないだ。2両目が通り過ぎた直後に転轍機を動かして3両目だけを支線に引き入れ、4両目の直前でレバーを戻す。本線の先は下り坂だから運転手はブレーキをかけるだろう。スピードの落ちた2両目に4両目が突っ込んできて、ガッチャン! 勝手に連結されるって仕組みだ」



綾は目を丸くしている。

次元は笑った。



「ソーントンに見せつけるつもりなんだろう。その気になりゃテメェの鼻先をかすめて何でも盗める、ってな」



やがて、綾の目にも分岐点の標識が見えてきた。

次元は車両の間の踏み板を外し、手動で連結の解除にとりかかった。

彼が3両目にある緊急用の解除レバーを引くのを、綾は固唾を呑んで見守った。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ