金色ウサギと赤い竜

□第2話
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ふいに次元が舌打ちをした。



『どうした、次元』



通信機を通してルパンが訊ねる。



「外れねぇ!」



次元は連結器を覗き込んだ。



「錆ついてやがる! 綾、下がってろ!」



上着の裾を跳ね上げて銃を構えると、次元は連結の継ぎ目を狙って引き金を引いた。

銃声は列車の走行音が誤魔化してくれる。

2発、3発。



「ダメだ! テコでもありゃあ何とか……」



次元はバスルームへ取って返すと、鉄パイプを手に戻ってきた。

それを連結部分に差し込み、力をかける。

少しずつ連結がゆるみ始めた。

綾はそれを不安そうに見ていたが、分岐はもう目の前に迫っていた。



『急げ、次元!』



ルパンが叫んだ。



「分かってる! もうちょいだ!」



列車が分岐にさしかかった。

綾は唇を引き結び、邪魔なドレスのスカートを短く引き裂いた。



「何を…… !」



次元が呆気に取られて手を止めた。

その前を駆け抜け、綾は後方の車両に向かって飛び出した。



「えいっ!」



連結部分を飛び越える瞬間に鉄パイプを握り、全体重をかけて4両目に倒れこむ。

金属のこすれる嫌な音とともに、連結が外れた。

車両は少しずつ離れていくが、ロープでつながれている為適度な距離を保ってついてくる。

五エ門がレバーを倒した。

3両目だけを支線に引き入れ、レバーを戻す。

ロープで牽引された4両目は分岐点を真っ直ぐ走っていく。

五エ門は4両目の端に倒れている綾を見て驚いた表情を浮かべたが、列車はあっという間に彼の前を通り過ぎていった。



「綾! 手を!」



次元が身を乗り出して叫んだ。

分岐が進み、車両が離れていく。

綾は慌てて立ち上がり、彼の方へ自分の手を伸ばした。



「……っ!」



精一杯伸ばした手は、あと数センチのところでむなしく空を切る。



「飛び移れ!」



次元が叫んだ。



「受け止めてやる!」

「無理よ!」



綾は首を振り、足もとにいたウサギを抱き上げた。



「トフィーをお願い!」



放り投げられたウサギを次元は慌てて抱きとめる。



「綾!」



顔を上げると、綾の乗った列車はすでに遠くへ走り去ろうとしていた。
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