Clap(またはぽちっと)の記録

□好きだと言って
1ページ/1ページ

〜「好きだ」と言って〜



あーあ。


あたしは人知れずため息をついて遠くから次元を見つめた。


彼はリビングのテーブルで愛銃の手入れ中で、あたしの事なんか見向きもしない。


そりゃあね。愛情を態度や言葉に出さない人だって知ってるけど。


なんとかして『好きだ』と言わせる方法はないものか……


「そうだ!」


あたしは思わず手を叩いた。


紙に書いて『これ何て読むの?』って訊けばいい!


えっ? むなしくないかって?


彼に好きだと言われた時の気持ちを味わってみたいあたしとしては、そこは深く考えないことにする。


あたしは五右エ門から筆を借りてきて、半紙に向かう。


待てよ。そのまま『好き』と書いたら魂胆がミエミエで読んでくれないかもしれない。


「辞書でもひけ」


とか言われそうだ。ついでに


「脳みそは時たま使ってやった方が良いそうだ」


とか言われかねない。


少し難しくて、あまり頻繁には使わない漢字はないだろうか。


そうだ。『梳き』が良い!


あたしは半紙いっぱいにしたため、次元のもとへ飛んで行った。


「次元、読めない漢字があったんだけど。これなんて読むのか教えて!」


「あぁ?」


次元はチラリとあたしの手にした半紙を見、あたしの顔を見つめた。


あぁ、ついにこの時がきたのね……


「りゅうき、か?」


はい?


いま、何ておっしゃいました?


「ゴメン、もいっかい言って?」


「りゅうき。だがそれを言うならこうだろ」


次元は手近な紙に『隆起』と書いてみせた。


ううっ、そんな「残念な子」見るような目しないでください。


「たまにゃあ脳みそ使わねぇと、ホコリがたまるぞ」


そう言ってあたしの頭をポンポンと叩くと、彼はまた銃の手入れに戻った。


自分の書いたものに目を落とすと、そこには大きく「流き」と書かれていた。




終わり

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ