金色ウサギと赤い竜

□第5話
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「遅いな」



そう呟いて、ルパンは立ち上がった。

綾が戻ってこない。



「何かあったか…… ?」



五エ門は心配そうに窓の外を見やった。

木々に阻まれて人の姿は確認できない。



「早く戻らねぇと、あの男が……」



ルパンはヒョイと弾みをつけて立ち上がり、大またでドアに歩み寄った。

ドアを開けたところであの男=ソーントンと鉢合わせする。



「わぁー!」



ルパンは大声を上げて後ずさりした。

ソーントンは顔をしかめる。



「なんて声を出すんです、はしたない」

「あ、あら、ごめんあそばせ。オホホホホ」



ルパンは愛想笑いを浮かべた。

ソーントンは室内を見るなり、即座に綾がいないことに気づいた。



「王女はどこです?」

「プルーデンス様は体調がすぐれないとのことで、まだ横になっておいでですよ」



ルパンはしれっと嘘をついた。

心配なのか厄介と感じたのか、ソーントンの眉間の皺が深くなる。



「医者を呼びましょうか。歓迎パーティには出てもらわないと困りますから」

「あっ、心配ご無用! ですわ!」



寝室へ入ろうとしたソーントンをルパンは慌てて押しとどめた。



「少し休めば大丈夫だそうですから。 …… ねっ、五エ門?」

「ゴエモン…… ?」

「あっ、いえ。五エ門 “さん” …… ?」



慌てて訂正するがもう遅い。

ソーントンが怪訝そうに、それから眉をしかめて苦々しそうに二人を見た。



「そういうことですか」

「え?」



バレてしまったかとルパン達は焦った。

しかし、ソーントンの次の言葉は全く予想していないものだった。



「まったく、最近の若者は手近なところに恋人を求めて……」



二人を恋人だと断定したのである。

ルパンと五エ門は互いに顔を見合わせた。



「五エ門さんも、もう少し分別を持ってください。侍女に手を出すなんて……」



やれやれと首を振って、ソーントンはため息をつく。



「ま、待て。何か誤解をしておるようだが某は……」

「言い訳は結構です。あなたを雇ったのは私どもではありませんし、仕事さえきちんとしていただければ私は何も申しません」



ソーントンは五エ門の言葉に耳を貸さなかった。



「まったく、あれのどこが良いのか…… 日本人の美的感覚はよく分からん……」



マリーにとって聞き捨てならぬことを呟きつつ、ソーントンは部屋を出て行った。
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