Lupin(Short)

□風邪ひくなよ
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夕日に染まった川沿いの道を歩いていた時だった。

綾はばったりと銭形に出くわした。

「あ、警部」
「あ、お嬢」

お互いに指をさす。

通りすぎようとしたが、後ろから腕が伸びてきて綾の腕を掴んだ。

「そうはいくか」
「あはは、やっぱり」

綾は手錠をかけられてしまった。

二人は土手に並んで腰かけた。

「ルパンはどこだ、お嬢?」
「しらなーい」
「ったく……」

銭形はため息をついた。

「警部……」

綾は銭形に顔を寄せ、じっと顔を見つめる。

「なっ、何だ……?」

見つめられて柄にもなく赤面する銭形。

「警部のその顎に勝てるのは、ミスターかザキヤマさん位だよね」
「ほっとけ!」

夕日がゆっくり沈んでいく。

「ねぇ。ルパンはどこ行ったか知らないし、待ってもムダだと思うよ?」

綾は手錠を難なく外して言った。

ルパン印の解錠術。

「帰っても良い?」

銭形に背を向けて歩き出したのだが、グッと腕を掴まれた。

そのまま強く引っ張られ、綾は銭形に抱き寄せられた格好になる。

「少しで良い」

銭形が小さな声で言った。

「少し…このままでいさせてくれ」

「警部……?」

見上げた銭形の顔は、夕日に染まったかの様だった。

二人はまた並んで座り、川の流れを見つめた。

空を映す川の色が、赤から紫へと変わる。

肌寒くなってきた外気に、綾は思わず身震いした。

ふわり、と。

肩にトレンチコート。

「風邪ひくなよ」

銭形は真っ直ぐ川を見つめている。

夕日はとっくに沈んだというのに、顔はまだ赤い。

綾は思わず吹き出した。

「警部って、可愛い」
「はぁ!?」

思いもよらない言葉に、銭形は面食らった。

綾はクスクス笑っている。

「からかうな、阿呆」

銭形も笑った。

「楽しそうなトコ申し訳ないけどさぁ、とっつぁん」

橋の上からルパンの声が降ってきた。

「綾は返してもらうぜ」

「ルパン、逮捕だ!」

銭形は手錠を取り出した。

綾はひらりと土手に下りてきたルパンと、対峙する銭形を交互に見つめた。

「綾、帰るぞ」

ルパンは無表情で綾に歩み寄り、肩から銭形のトレンチコートを取り上げた。

「これ返すぜ!」

ルパンは銭形の顔めがけてコートを投げつけ、その隙に綾を抱え上げ土手を駆け上がる。

橋の上に停めたフィアットに乗り込むと、フィアットは軽やかに走り出す。

綾は開いた窓から土手を見下ろした。

銭形の視線は、真っ直ぐ綾を見ていた。


おわり

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