Lupin(Short)
□名前を呼んだだけじゃない
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綾には前から気になっていた事があった。
五右エ門の事は名前、つまりファーストネームで呼ぶのに、次元やルパンはファミリーネームだという事である。
そこで、リビングで寛いでいる次元に言ってみた。
「だいすけ」
次元がビクッと動きを止め、目を丸くしてこちらを振り向いた。
「何だおめぇ。何か悪いもんでも食ったか?」
「何よそれ。名前を呼んだだけじゃない」
「よせよ、気味悪い」
次元はフン、と鼻を鳴らした。
「考えてみろ。あの冒険野郎マクガイバーだって、ピーター達になんて呼ばれてるか」
「そういえば、誰もアンガスって呼んでないね」
「馴れ合いみたいのは好きじゃねぇって事だろ。友達ごっこは他所でやれってんだ」
「ふーん」
「何だよ、その『ふーん』ってのは」
「照れてんの?」
「ばっ……! バカ言え!」
綾はコロコロと笑った。
「ルパンは?」
綾は隣に座っていたルパンにも話を振った。
「アル、とか呼ばれたりしないよね」
「よせ綾」
珍しくルパンが厳しい口調で咎めた。
「俺は『ルパン』で結構だ」
ルパンは遠くを見るような目をしていた。
何か複雑な訳があるのだろうと綾は思った。
たとえば。
かつて、たった一人愛した女性がいた。
その人は言った。
『私が死んでも悲しまないで、アル』
ルパンは彼女の亡骸を抱いて思う。
アルと呼んで良いのは生涯君だけだと……
「ルパ〜ン!」
綾は滝のように涙を流しながらルパンに抱きついた。
「ごめんねぇ、ルパンにとって彼女は大切な思い出だもんねぇ……!」
「……どったの?彼女」
ルパンは綾を指差し、次元を見た。
「いつもの妄想病だ、気にするな」
綾はありもしない悲恋に、まだメエメエと泣いている。
ルパンは笑って、綾の髪を撫でた。
胸にすがりついてしゃくりあげている彼女の肩を、そっと抱きしめる。
「もう泣かない泣かない」
「ごめんねぇ」
「ハイハイ」
次元は抱き合う二人を横目で見て、肩をすくめた。
「アホらし……」
おわり