Lupin(Short)

□振られて正解だな
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バタン!

大きな音をたてて玄関のドアが開閉され、怒りを露わにした足音がリビングに向かってくる。

素知らぬフリをしてバーボンを飲んでいた次元だったが、背後から細い腕が伸びてロックグラスを奪った。

「何すんだ」

振り向くと、綾はグラスの中身を一息に飲み干し、大きなため息をついた。

グラスを叩きつけるようにテーブルにおろす。

新しいグラスを取りにキッチンへ行った次元が戻ってみると、綾は片手にグラス、片手にバーボンのボトルを持ち、手酌で勝手にお代わりをしていた。

「俺の酒だぞ」

次元はボトルを取りあげ、テーブルに戻した。

ずいぶん荒れてるな。

そう話しかける前に綾が口を開いた。

「つまらない女だって!」

綾は空になったグラスをダン!とテーブルに置いた。

これ以上飲ませると厄介だ。

酒を取られまいと次元はボトルに手をかけた。

しかし綾は次元の手の上からボトルを掴み、自分のグラスにお代わりを注いだ。

「おいっ」

抗議の声をあげて見上げると、綾はひどい有様だった。

髪はボサボサ、頬に涙の跡。

「男か」

「くやしい〜」

怒り顔が急にクシャッと歪んで、泣き顏に取って代わる。

「絶対、後悔させてやるんだから!」

そう言いながら一晩泣いていた彼女だったが。

翌朝。

彼女はばっちりフルメークをし、きれいな白いワンピースを着て現れた。

ただ朝のゴミ出しに行くだけの為に。

次の日も、その次の日も、特に用事もないのに綺麗に着飾っている彼女。

「何してんだ、お前」

朝早くから玄関前を掃き掃除していた綾に、次元は声をかけた。

「何って、掃除」

「そんなカッコでか」

次元は綾の姿をジロジロながめた。

可愛らしいドット柄のワンピースに、揺れるデザインの小さな石のついたピアスをキラキラさせている。足もとはピンクベージュのヒールの高いサンダル。

「誰が見てるか分からないでしょ。気を抜けないわ」

綾は眉をつり上げ、拳を握りしめた。

「私をフッた事、絶対後悔させてやる!」

成る程、そういう事か。

次元は納得して笑みを浮かべた。

「何で笑うのよっ。何かおかしい!?」

「いーや。まぁせいぜい頑張るんだな」

「言われなくたって分かってるわよ!」

綾はひどく気合いの入った顔で掃除の続きを始めた。

親の仇とばかりに力一杯地面をこすっており、掃除というより箒を破壊しているかのようだ。

次元は煙草を燻らせながら、そんな彼女をずっと眺めていた。

つまらない女だって?

彼女をフッた奴はバカだ。

感情をストレートに出し、クルクルと表情を変え。

今は振られた相手を後悔させる事に躍起になっている。

こんなに見ていて飽きない彼女を“つまらない女”とは、まったく見る目がない。

「ま、振られて正解だな」

思わず呟いた言葉を、彼女は耳ざとく聞きつけて振り向いた。

「何ですって!?」

箒を振り上げて睨みつける彼女に、次元は慌てて家の中に逃げ込むのだった。


終わり。
次頁あとがき。
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