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□馬鹿達につける薬は無し
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~SUZU~
「遊佐さん!遊佐さん大変や!」
某アニメの収録が終わり、共演者それぞれが帰りの身支度をし始めたと同時に、俺は愛しの魔王様のもとへと駆け寄った。
「…なに。」
いやん、恋人に向かってそんな冷たい態度しないどいて。
そんな風に軽口叩けば、用がないなら帰るねバイバイ。なんて鞄を持って帰ろうとする遊佐さん。
「ごめんて、遊佐さん帰らんといてー!」
「無理無理帰る帰る。」
コートひっつかんで止めようとするも、ズルズルとドア付近まで引きずられてく俺。
あかんこの人。
ほんまに帰るつもりや。
てかなんでそんなあからさまに機嫌悪いねん。
さっきの俺の一言が原因にしても、いつもの遊佐さんならここまで機嫌が悪くなることも無い。
そんなことを考えていたら、ふとある事に気が付いた。
遊佐さんの目の下の隈。
………
「なぁ遊佐さん。」
「何、悪いけど俺マジで早く帰りたいんだよね。」
「寝不足なん?」
「……」
遊佐さんの動きが止まる。
「寝不足なんやろ?その隈。」
「………」
「せやからそんなに今日機嫌悪いん?」
「………別に。」
遊佐さんの眉間にどんどん皺が刻まれていく。
「お節介かもしれへんけど、夜なんか忙しいん?それとも何か夜も寝れないくらい深い悩みがあるとか…俺聞きますよ?」
大好きな人のことや。
心配になるに決まってる。
共演者には見えないように、そっと遊佐さんの手を握ってみる。
「…別に、」
「?」
「別に最近ぎんがが冷たいとか、寝るとき俺のベッドに来てくれなくなって寂しいとか、もしかして俺加齢臭でもしてるのかなとか、そんな事で悩んでたりしてないけど、お前がどうしても話聞きたいって言うなら聞かせてやらないこともない。」
「…あ、はい。」
おっさん…
聞くもなにも…今ので九割がたわかってしもたわ。
そんなことで機嫌悪かったんかいな、って本来だったら脛蹴ってるかもしれんような悩みやけど。
そこは同じ犬を飼ってる者同士
通じるところあるで。
相当ショックやったんやな遊佐さん。
目、潤んでるやないかい。
「そっか…辛かったな、遊佐さん。」
「うん…。」
「昨日美味しい日本酒が届いてん。それ飲みながら俺ん家で話そうな。」
「うんっ」
日本酒って聞いた途端に機嫌がよくなっとる。
案外チョロいな遊佐さん。
ていうか俺も何気この後遊佐さんと飲む約束してるし。
我ながらよくやった、俺。
あ、帰るときモモとアイビーにおやつ買ってったろ。
そんなこと考えてたら、なんで遊佐さんに声かけたかとか、そんなもんを綺麗さっぱり忘れるとこやった。
いかんいかん。
「せやねん遊佐さん。俺遊佐さんに言わなあかんことがあったんや。」
「ん?」
ほんと、さっきまでの機嫌の悪さはどこへいったのか、今度はちゃんと俺の目を見てくれる。
俺はこっそりと、遊佐さんにだけわかるように、
ある共演者の二人を指差した。
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