海賊

□不憫な男の処世術(Z×S←G)
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一方
その延長線上の街

カモメがにゃあにゃあと
規則的に聞こえていたそれが不意に乱れ、群れは何かを避けるように散り散りに飛び交った

美しかったフォーメーションを一瞬にして崩すのを見ていた男が群れの真ん中の、異質な存在に気付く


「オイアレ…なんだ?」

「んん?鳥だろ鳥」

「いや…にしてはデカい気が…」

「確かに鳥にしちゃあ………それより……こっちに落ちて来てないか?」

「…なあ、アレ人じゃ…」

「まさか、あっちは海だろう。どうなったら人なんかが飛んで来れるんだ」

「だよな…」

「……」

「……」

「……いや、人だな」

「ああ、人だ」


近付くにつれて足や手が見て取れ
叫び声まで聞こえてきた





「……人が…こっちに飛んでくるな」


「ああ……」







***************



レストランを目にする度

むしろ、飯の度

果てには食物が目に飛び込んでくる度

恩人であり
焦がれてやまない金髪のコックを想い出す

こうも忘れられないものか

会う事すら
奇跡が起こらなければ叶わないというのに

今日もまた
露店に並べられた、あの人の髪の色に少し似たフルーツを拾い上げ
話しかけるように独り言ちる


その姿
もはや末期としか言えない


「…元気にしてるか…」


不意に、辺りのざわつきの質が変わる


逃げまどうようにギンのすぐ傍を人がすり抜けていく


全神経をサンジとの仮想会話に集中させた男にはそんな変化も完全にシャットアウトされる


悲鳴までも聞こえ始める


そんなもの
今のギンの心には響かない


「ああ!おい!そこの兄さん危…!」

「なァ、サンジさ…」

「ああぁあああぁあぁああ」

「んがっ!」

「……ん?」


腐っても総隊長
打たれ強さには定評があるのだ

脳天に凄まじい衝撃を受けた事よりも
交信を断たれた事に気を取られていた

すぐ傍で腰を抜かしていた男が恐る恐る声を掛ける


「ア、アンタ…大丈夫なのか?今すごい音が…」

「ああ、特に問題は……なんだこれは」

状況を飲み込めないままに
自分の頭の上で見事に止まったままの存在をひょい、と抱えて目の前に持ってきた


その姿を見て、言葉を失う


「!」







え?天使?








いや


この人は

目だけでなく眉毛まで回しているこの人は

…紛れもなく


「…サンジさん…か…?」


奇跡が起こったのだろうか


はたまた交信が通じたのか


空から降ってきたのは
俺の天使だった


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