Short novel

□※call my name…
2ページ/8ページ


君が呼べば、それは途端に特別な言葉になる。











月の無い漆黒の夜。
何もかもが闇に溶けていて、
ざわざわ、と、
時折吹く風がその闇を撫でていく。

暗い廊下を渡り、恋人の部屋の襖を開けた途端、伊作の視界は床から天井へと、突然ぐるりと反転した。


「わぁっ、…な…っ!」



状況を把握するまでに少し時間がかかったが、乱暴に畳に押し倒されたのだ。


余りにも唐突だった為、受け身をとれなかったせいで、ぶつけた頭はくらくらするし畳が直に背中に当たって痛い。




「もんじ、どうした、の」



尋ねてみても、無言のまま自分に覆いかぶさっている恋人。



夕食を終えて食器を返却していると、離れて食べていたはずの文次郎がいつの間にか背後に来ていて、


「…後で俺の部屋へ」


と、だけ、耳元でぼそり、告げられた。

「え、」

どうして、と、問おうと振り向いた時にはもう彼の姿は見当たらず、

(今に始まった事じゃないけれど、本当にせっかちだなんだから…)

と溜め息を吐きながら自分も食堂を後にした。



そんなこんなで、こうして文次郎の自室までやって来たのだけれど。


.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ