Short novel
□※call my name…
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君が呼べば、それは途端に特別な言葉になる。
月の無い漆黒の夜。
何もかもが闇に溶けていて、
ざわざわ、と、
時折吹く風がその闇を撫でていく。
暗い廊下を渡り、恋人の部屋の襖を開けた途端、伊作の視界は床から天井へと、突然ぐるりと反転した。
「わぁっ、…な…っ!」
状況を把握するまでに少し時間がかかったが、乱暴に畳に押し倒されたのだ。
余りにも唐突だった為、受け身をとれなかったせいで、ぶつけた頭はくらくらするし畳が直に背中に当たって痛い。
「もんじ、どうした、の」
尋ねてみても、無言のまま自分に覆いかぶさっている恋人。
夕食を終えて食器を返却していると、離れて食べていたはずの文次郎がいつの間にか背後に来ていて、
「…後で俺の部屋へ」
と、だけ、耳元でぼそり、告げられた。
「え、」
どうして、と、問おうと振り向いた時にはもう彼の姿は見当たらず、
(今に始まった事じゃないけれど、本当にせっかちだなんだから…)
と溜め息を吐きながら自分も食堂を後にした。
そんなこんなで、こうして文次郎の自室までやって来たのだけれど。
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