ナルサス部屋
□端っこから食べたら?
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【端っこから食べたら?】
「サスケェ〜。冷やし中華とソーメン、どっちにする?」
台所から聞こえてきた声に、
「素麺」
サスケは即答した。
大体、昨日冷やし中華を食べたというのに、連チャンで食べろというのか?という疑問は、例の如く“ナルトだから”で完結する。
「りょーかい」
鼻唄でも歌いそうなナルトの声に、サスケは部屋の扇風機を回した。
日中閉めきられた室内の空気は、どんよりとして蒸し暑くて。
首を振る扇風機に、生暖かい風が動き始める。
まだ、夏本番を迎える前だというのに、うだるような暑さが、ここ数日続いている。
それで、どうしても落ちてしまう食欲に、喉越しのいい麺類が食卓に出るようになったのだが。
普段なら、麺類主体の食事を却下するサスケだが、今回はすんなり許可を出した。
どうせ作るのはナルトだ。
短時間とはいえ、あの湯気に晒されるのはナルトなのだから、どうでもいい、と暑さに強いサスケが思うくらいには、ここ数日の暑さは異常だったのだ。
その一方で、ナルトはすんなりと出される麺類の許可に、嬉々として食事作りをかって出ることが多くなった。
「あ、ナルト」
一応は窓を開けて、風の通り道を確保すれば、少しばかりはマシになった脳内で閃いたことを口に出す。
「冷蔵庫にトマトあるから、それも出せよ」
「りょーかいだってばよ〜。……あ、豆腐は?」
「食う」
「んー」
くぐもった声なのは、冷蔵庫に顔を突っ込んでいるからだろう。
テーブルに置かれた大きな深皿に、でーん、と盛られた素麺に、サスケはため息をついた。
「ラクしすぎだ、ドベ」
「へ?いいじゃんよ」
その他の薬味や冷奴、トマトの皿は、きちんと別々にしてあるのだから、大方素麺を茹でたらざっと水切りして、流水で晒して、皿に移してできあがり、のパターンだろう。
「だってさぁ、サスケん家、桶ないじゃんか」
「桶?」
「そ。桶。素麺は水を張った桶ん中に氷入れておくんだってばよ」
ああ、それで氷まで入っているのか…と、納得しかけて、ハタと止まる。
「何だそりゃ」
「だって、エロ仙人と修業の旅ん時は、いつもそういう感じで出てたってばよ?」
「…ふーん」
「違うってば?」
「んー。店によりけりじゃねぇか?」
ただしそれは、店で出された場合で。
断じて一般家庭が全てそうだとは言えないから、とサスケは内心で思う。
「サスケん家はどうだったってば?」
言われて、記憶を辿る。
「こんな風に、何本か纏めて、食べやすいように巻いて…」
行儀が悪いとは思いつつ、箸で摘まんだ素麺の束を、指でくるり、と巻いてみせる。
「すげぇー!…でも、それって大変だってばよ」
「…だなぁ」
綺麗に負けた素麺を、ポチャリ、とつゆに落とす。
「あの量を一人で巻くってのは、大変だったろうなぁ」
そう言ったサスケの顔は無表情で。
何の表情も浮かんでいない分、胸の内に深く秘めた感情の深さを、ナルトに思わせた。
「…偉いんだな、かーちゃんって」
よくわかんねぇけど、という言葉は、絶対口には出さない。
それは、最近になって、本当に、ごく稀に、家族のことを口にするようになったサスケを知っているからで。
話すのは、自分にだけ、ということも知っているから。
一緒にいても、知らないことは、とても多いから。
「じゃ、いただきます」
パン、と両手を合わせて箸を持ったナルトに、サスケはつゆに浸かった素麺の束を口に入れた。