ナルサス部屋

□ぷちとまと
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【ぷちとまと】




赤い真っ赤なプチトマト。

丸くて可愛いプチトマト。

お口に入れてね。

優しく噛んでね。

勢いつけて、強く噛まないで!

弾けて飛んじゃうよ。

お口の中で、そっと噛んでね。

ぷちっ、と広がるでしょ?

甘い?

酸っぱい?

美味しいでしょ?

もひとつ食べる?

赤い真っ赤なプチトマト。

食べさせてあげようか?






「…ナルト」

うとうととしていた耳に、サスケの声。

うっかり寝てしまっただけに、ああ、怒られる…と思ったら、

「ほれ」

どこか可笑しそうに言う声と共に、唇に何かが触れた。

「ほぇ?」

疑問を口にしようと開いた途端、その何かを押し込められた。

「んっ?!」

「噛め」

吃驚に見開いた視界に、笑うサスケの顔が告げる。

言われるままに噛み締めれば、口の中に小さな酸味が広がった。

「美味いだろ?」

「ぅん」

で、何?と寝転がったまま視線で問えば、

「プチトマトだ」

ああ、なるほど。

「もらったんだ。ほら」

見せられたプラスチックのザルの中には、ぎっしり真っ赤なプチトマト。

「形が不揃いだから、商品には出せないんだと」

言われて見やれば、親指の先ほどの小さな物から、細長く伸びた物から、色々だ。

「味は全く変わらないのにな」

勿体無い、とひとつ摘まんで口に入れた。

「だよなー。美味いのに…」

あーん、とばかりに口を開けば、

「ん?」

それに気づいたサスケは、一粒摘まんで、ナルトの口の中に入れた。

「まあ、それだから、こんなにおこぼれがもらえるんだけど」

自分の口にひとつ。

「ぅん」

ナルトの口にひとつ。

「そっか」

ふごふごと噛み続けていけば、ふと思う。

「プチトマトって、いつの野菜?」

「夏だろ」

「だよなぁ」

毎日食った、というか食わされた気がするし。

「プチトマトも?」

「ハウス栽培」

ああ、それでかぁ。

納得。

口の中の、トマト特有の酸味が薄らいだ頃。

「ナルト」

「ん?」

口に入れられたのは、細長く伸びたプチトマトだった。

「プチトマトって、丸いだけじゃないんだなぁ」

感心したように呟けば、

「そうみたいだな」

サスケもそう思っていたらしい。

「これはこれで、面白いけどなぁ」

ザルの中から、長細い形のプチトマトを選ぶと、ナルトの口に入れてやる。

「うう」

くぐもった声の先には、唇から突き出したプチトマトが見えた。

くすっ。

可笑しいから、その先端を人差し指で押し込んでやる。

はむっ。

押し込んだプチトマトごと、人差し指も食われそうになる。

「っ?!」

危うく引っこ抜くと、そこには、悪戯を思い付いたようなナルトの顔。

うんせ、と寝転がっていた上半身を起こすと、ザルの中から丸いプチトマトを摘まみ取る。

そして、完全に口の中に入れてしまわずに、唇に挟んで待機。

「?」

そうして、何をするのかと見ていたサスケの肩を、がっしりと掴んで固定。

「んー」

そのまま顔を近付ければ、サスケが目を見張る。

「ん」

「…っ」

逃げそうになるサスケの肩を、するり、と右手で抱き締める。

触れた柔らかい唇に、そっと口にしたプチトマトを押し付ける。

「…、…」

その意図を察して、おずおずと開く唇は、口移しにされたそれを、半ば受け止める。

けれど、完全には受け入れない。

「……?」

不思議に思って見つめれば、

「……」

怒ったような、新月の夜空色の瞳が見つめ返してきた。

唇は触れているのに、間にはプチトマトがあって。

ほんとに触れているだけ、の唇。

こんなに近いのに、お互いの目を覗き込んだまま。

「……」

「……」

だから、半分だけ残ったプチトマトを、かぷり、と噛んでやった。

「んっ?!」

途端に流れ出した汁を、慌てて吸い込む。

と、同時に柔らかい舌も入り込む。

舌の上に、甘酸っぱいプチトマトの欠片。

それから、熱を持ったナルトの舌先。

絡んで、

舐めて、

貪って。

流れる滴も、

吸い取って。

「…ふ、ぅ、…んっ」

柔らかな熱を、互いに交換して。

トマトの酸味も、甘く消える頃。

「サスケ…」

「……ん、ぅ…」

「美味い?」

「………」

「ん?」

煙るような視線の先に、澄んだ秋空色の瞳が笑う。

「どうだった?」

その顔が憎たらしくて。

「………。バーカ」

答えてなんか、やるものか。






赤い真っ赤なプチトマト。

丸くて可愛いプチトマト。

甘いでしょ?

美味しいでしょ?

だけど一人で食べてよね。

半分こになんてできないよ?

汁が零れるもの。

勿体無いでしょ?

溢さないでね。

残さないでね。

全部食べてね?







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