ナルサス部屋

□豆と悋気と八つ当たり
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さて。

時を遡ること、数時間も前になろうか。

事の発端は、ここから始まった。

「サスケ、サスケェ」

いつものように駆け寄ってきたナルトに、サスケは視線を移した。

「聞いてくれってばよ!明日からサクラちゃんと一緒に任務に出るんだってばよ〜」

「ふーん」

「サクラちゃんと一週間も一緒だってばよ」

「一週間…」

小さくくり返された言葉に、ナルトは嬉しそうに笑うと、言葉を続けた。

「うん。そーなんだってばよ」

「…」

「サクラちゃんとヒナタが医療忍術の技術提携に行くんだってばよ」

「…」

「で、オレはその護衛なんだってばよ」

「…」

「任務としては簡単だし、ちょっとは自由時間もあるっていうしさぁ」

「…」

「だからさぁ、すっげー楽しみなんだってばよ〜」

楽しそうに話すナルトを、サスケは興味もなさそうに見やってから、踵を返した。

「あ、サスケ!」

スタスタと歩き出したサスケの背中に、ナルトは言葉を続けた。

「今日、ウチ来るよな?な?」

無邪気に問われて、サスケは眉をしかめる。

「あーっと、ダメなら、サスケん家行ってもいいか?」

「…」

「サスケ?」

黙ったままのサスケに問うナルトには“会わない”という選択肢はないのだろう。

そして、それを当然だと思っているナルトに、サスケは憮然とする。

「サスケってばよ?」

段々と心配するような声音に変わると、サスケも困惑したようにナルトを見やった。

「サスケェ」

「………………。お前ん家に、行く」

「おう!じゃ、さ、オレってば、まだサクラちゃん達に用があるからさ、あとでな!」

「…ああ」

「もし、オレがいなくても、入っててくれよな!」

走り去るオレンジ色の背中を見つめながら、サスケは苦り切った顔で立ち尽くしていた。










勝手知ったる何とやら、で。

ナルトのアパートに入り込んだサスケは、持ってきた袋を開いた。

中には、薄茶色の大豆の粒。

それは、節分にあわせて安売りしていたのを、常備食の乾物として買っておいたものだった。

「…」

そんなものを持ってくるなど、自分でもどうかしているとは思うが。

それでも、持ってきてしまった、心の内。

それは偏に、迷信とも、戯れ言ともつかない理由からなのだが…。

「…」

サスケは、台所のコンロにフライパンを置いて火をつけると、その中に大豆をぶちまけるた。

焦げないように、フライパンを回せば、カラカラと大豆が鳴った。

『サスケ、サスケェ』

「…」

『聞いてくれってばよ!明日からサクラちゃんと一緒に』

カラカラと忙しなく鳴る大豆に、苛立ちが拍車をかける。

〔いつものことだ〕

事ある毎に、サクラ、サクラ!サクラ!!

そんなにいたいなら、一緒にいればいい。

一週間も一緒にいられて、さぞ嬉しいだろうよ。

〔浮かれやがって〕

…だが。

そんなことは、今に始まった訳じゃない。

昔っからナルトはそうだっただろ?

そう思うけれど…。

でも…。

納得させようとする心に、反論する心が叫ぶ。

だって!

いつも、ウザイくらい、くっついてくるくせに。

いつも、煩いくらい、何回も呼ぶくせに。

なのになのに!

浮かれ捲って、コロッと一転しやがって。

〔………くそっ〕

カラカラカラカラッ。

カラン、カラン。

カラン…。

「……」

薄皮がはぜていく大豆を、ぼんやりと見やる。

〔…一週間…〕

『だからさぁ、すっげー楽しみなんだってばよ!』

〔……ッ(苛)〕

カラン。

カラン、カランッ。

カラカラカラカラッ。

再び勢いよく鳴り出した音は、しばらく続いた。

そして、音が止まった時には、サスケの中の苛立ちは最高潮に膨れあがっていた。



 
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