宝物殿

□頂き物(ナルサス)
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☆アサキナ様宅の、極道(年下)×彫師(年上)パラレル設定です。




きらきらと降り注ぐ穏やかな余韻。耳に心地よく抜けていくそれは滅多に無い大判振る舞い、だ。

台所からリズミカルな包丁の音とともに微かに聴こえてくる歌声。今日はどうやら余程良いことがあったらしい。

年上の恋人をそうまで上機嫌にさせた理由に自分が若干の嫉妬を覚えたのにまだまだ修行が足りないな、と苦々しく首を振り、上着を放ってするりとネクタイをほどいた。

「…ナルト」
「はーい」

我ながら良いお返事だ、と思いつつ振り向けばいつの間にか後ろに立っている麗しい人。

ナルトの極道などという因果な職業柄、人の気配に疎いのは致命的である。それはナルトの油断といえなくもないが、すっかり気を許しきっているともまた同義語だから彼相手なら構わない。

「今日は泊まってくのか?」
「とーぜん、って。日付変わるまでには戻ってくるってばよ」

日に当たっても焼けない白い肌に薄い色素の小さな口、全体の造作が美しく、跳ねた後ろ髪ですら彼のチャームポイントにはなるが玉に瑕、にはならない。男盛りとはまた違うなんともいえない色気。

その形の良い眉が吊りあがる。

「…‥聞いてないな」
「へ?あ、言ってねえ。さっきカカシから電話きてさ。後でもう一度出るってば」

ナルトはネクタイを放り捨てたところできちんとその機嫌を悪くした顔を見て、慌ててしゃがみ拾う。それをクローゼットにかけてから改めて見直すと、何故かいっそうの機嫌を悪くした顔。

ええ?と固まる男にサスケは盛大にふン、とは鼻を鳴らし寝室を出ていく。

「…‥」

あまりにも露骨に気分を変えられたのに動揺したナルトは立ち尽くした。

頭の中であまり性能がいいとは言えない回線がばちばちと電気を伝える。けれどそれはあっけなくエラーを示した。

「…‥あー」

それも当然といえば当然だがどうにも、居心地が悪い。皆目見当もつかない自分を情けなくなると同時に頭痛さえしてきた。

ここで泣きついたらオトコじゃねえってば。思う。

本当に。時にはこちらが驚いてしまうくらいうちはサスケという人は自分に対して開いたままだ。それはそう、恐らくはナルトがまだ彼に追いつけないでいるから、で。

再び台所に戻り鍋にお湯を沸かしている彼は、ちょうど溶いた卵に刻んだ野菜を入れるところだった。手早くかき混ぜて熱したフライパンにオイルを垂らし、流し入れる。

とん、とんとフライパンの柄を叩く、透けるように白い、そして自分に比べれば細い手に僅かに静脈が立っていた。

慣れた手つきに危なげは無いが、昔料理を作って貰った覚えは無いからきっと彼が台所に立つようになったのはここ数年だ。

昔、そう昔だ。古い言葉を借りるなら十年一昔というから、もう一昔は前。

ナルトは一度、サスケと離れた。

出会ったのならもっと前だ。ナルトが孤児院を出てアカデミーに入る頃。もう十四年も前になる。

出会ったのは十四年も前なのにともに過ごした時間は見当違いな言い掛かりをつけたいぐらい少ない。それはこうやって彼に試されているようなとき、やたらとちらついて。

ああもうマジで誰だってばオレは、うずまきナルトじゃないのか!

いくらなんでも隙を見せるかのように、ふンと盛大に鼻を鳴らされて明らかに甘えられているこの状況。これに応用が効かないなんてオレってば情けなさすぎる!

あーっ、と頭をかきむしりたい衝動を何とか抑えて、仕立ての良いシャツのボタンをのろのろと外していく。仕事に着るここらへんの服は殆どナルトの趣味だ。私服などはもう大概、あまりのラフさを呆れたサスケの手に寄るものだが。

それを苛立ち紛れに放り投げる。すぐに壁に当たり落ちたのにやりきれなさが増した。

現在ナルトは仕事場を兼自宅としているサスケ宅で主に日常を過ごしている。通い妻と著すには家事能力が足らないので、貴族が夜半に恋人の褥に通う方が近い。ありていに言ってしまえば半同棲状態、だ。

それは勿論ナルトの我が侭だけで成り立っていて。

がっくりと力が抜けてしゃがみこむと溜め息が出た。



***



「ナールト?どーしたのそんな顔して」
「…‥カカシ」

そこは色々と察するべきだってばよ、と抑えた八つ当たりをされる。その明らかにむくれた顔にカカシは悟られないように薄くひっそり笑った。

色々と察せられるからこそ敢えて聞くのだとは言わず黙って車内へ促す。乱暴にばたん、では無くぱたんと閉められたドアが逆に子供の戸惑いの程度を示すようだった。

全く。こっちが落ち込むほど仲睦まじい恋愛をしていると思ったらこれだ。

シートにしっかり収まったのを確認して、体温の高いナルトのためにフィルム加工されたパワーウィンドウを上げて冷房を入れる。カカシ単体なら、例え嫌味なスーツを着込んでいながら窓を開け放っていても、それほど歩行者や他のドライバーに奇異な目では見られないのだ。

ちらりとミラーに写る後部座席を見やる。

容姿はもう立派に成長を遂げているのにそこに写っているのはまだむくれている幼い表情。

全く、もー。

やはり何だか笑えてしまった。

あの子供が今や大人の身体を持って愛だの恋だのに悩んでいる。その相手がやはりかつてはまだまだ子供だった弟子だ。

ナルトがなんの躊躇いもなくサスケを選んだことに、正直戸惑いはした。二人を引き合わせたのは自分に違いないのだが、そう、だからこそ。

しかしその出会った頃既にカカシは引き抜きの勧誘を受けており、二人を近くで見ていたわけではないからくる違和感なのだろう。現にあの当時の二人を殊更間近で見ていたサクラはあっさりと受け入れたのだ。

更にはカカシですら、違和感があったけれど拒否感は初めから無い。ともすればどちらも愛しい存在であり、その二人がくっついていて幸せだと言うなら、四代目も公認であることだし反対するいわれは無かった。

しかし名門木の葉組の時期組長が後部座席に拗ねた幼児そのものの仕草で口を尖らせているのは頂けない。

後で原因に電話でもしてやるかなあ、

頭にはカカシの鼻筋に入った傷も愛しい人の姿を浮かべれば、そんな寛大な気持ちになった。
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