ナルサス部屋
□宵闇の音色
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【宵闇の音色】
「何してるんだってばよ?」
「……」
そう問うたナルトに、サスケは無言で返す。
いつもならここでケンカ腰になるのだが、サスケが何を作るのか気になって仕方ないナルトは、あっさりと口を閉じた。
「……」
急に大人しくなったナルトの、それでも興味津々な気配を感じながら、サスケは手元の作業に集中する。
事の始まりは…一体どこから説明したものか。
休日に修行に出掛けた山中で、お互いに出くわして。
フン、とばかりに距離を取って修行開始。
その内、中天に昇った太陽に昼時を知れば、
腹減らねぇ? とばかりに近寄って。
川で魚を捕ったナルトに、火遁で火を起こしたサスケは、手近にあった竹で串を作った。
そうして魚を焼いている間に、サスケは手にした竹で何やら作り出したのだ。
それを見たナルトの言葉が、先程の問いなのだが。
手にした竹に、クナイで穴を開ける。
大きめの穴が一つ。
小さめの穴が七つ。
最後に穴の中に残った木屑を吹き飛ばして、目の前のナルトを見やる。
「…できたってば?」
わくわくしながらサスケに問えば、
「まだわからねぇ」
と、竹を口許に当てた。
ふっ、と強く息を吹き込む。
ぴぃぃぃ――――っ。
張りのある甲高い音が響く。
「おぉ?!」
驚いたようなナルトの表情に、サスケは目で笑った。
それから、一音ずつ音を確かめてから、満足したように唇を離した。
「なぁ、なぁ、それってば、笛?」
「ああ。篠笛っていうヤツだ」
「なぁ、なぁ、サスケ、吹けるってば?」
それこそ当然、とばかりにうなずくサスケに、ナルトがはしゃぎ出す。
「じゃあさ、じゃあさ、吹いてくれってばよ!」
そんなナルトを一瞥すると、サスケは再び完成した篠笛に唇を当てた。
ぴぃ――っ。
ふぃぃ―――。
高く響くかと思えば、低く明瞭に響く笛の音に、ナルトはうっとりと聞き惚れる。
合図に使う指笛とも、遊びで鳴らす草笛とも違う音は、遠く響いては、ゆったりと山々に融けていく。
「………はぁ」
篠笛から唇を離すと、サスケは大きく深呼吸した。
「…すげぇってばよ」
感動の余韻から抜けられないナルトは、大きく見開いた瞳でサスケを見つめていた。
そんな感嘆のまなざしに気を良くしたサスケは、手にした篠笛をナルトへと差し出した。
「え?いいってば?」
返答の代わりに篠笛を突き出せば、驚いた表情が嬉しそうに笑った。
「吹き口を塞ごうと思うなよ。半分開けるくらいにしないと音は出ないぞ」
「???」
疑問符だらけで固まったナルトの口に、サスケは篠笛を押し当てた。
「そのまま、下唇だけ当ててろ。…指は」
そうして、サスケの篠笛指導が始まった。
肺活量のあるナルトは、すぐに音は出せるようになったのだが、指遣いになると、どうも混乱するようだ。
「だぁ――っ。難しいってばよ!」
ぴーぴーと篠笛と格闘しているナルトを余所に、サスケは焼けた魚を咀嚼していた。
そんな、食事もそっちのけに篠笛を吹いているナルトを、サスケは不思議なモノを見るような気分で見つめていたが、
「…そんなに気に入ったんなら、やるよ。…ほら」
いい加減焼け過ぎてしまう魚を手に、ナルトに差し出した。
「え?どっちだってばよ?」
篠笛か、焼き魚か。
「どっちも」
「へ?」
「いらねぇなら、いい」
「いるいる!いるってばよ!」
篠笛も、焼き魚も。
両方確保して、ナルトはサスケの表情を窺った。
焼き魚はともかく、篠笛はサスケが作ったものだし、それは同時に所有権も有するのではないだろうか。
けれどサスケには、篠笛に対する執着心はなさそうだ。
「オレってばよぅ、コレ、練習するってばよ」
焼き魚を頬張りながら、ナルトは膝に抱えた篠笛を見やった。
「そんで、そんで、サスケみたく上手くなるってばよ!」
いつもの勝手なライバル宣言だったが、悪い気はしなかった。
「そうかよ」
だから、返した言葉もいつものものだったが、その声音はどこかやわらかだった。