ナルサス部屋
□かぜひき
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【かぜひき】
「………バカは風邪をひかないってのは、嘘だったんだな」
布団から覗く、日の光を溶かし込んだような金色の髪を眼下に、サスケはぼそりとつぶやいた。
先程まで「風邪なんかじゃないってばよ!」と強く主張していたナルトだったが、
「そんなに言うなら飲んでみろよ。風邪じゃないなら平気だろ」
「風邪じゃないから飲まないってばよ!」
「…こんな薬も飲めないのかよ。やっぱりドベだな」
「何おぉ!こんなもん飲んでやるってばよ!」
という売り言葉に買い言葉で、サスケの差し出した丸薬を飲んだ結果が、布団に潜り込むようにして眠る現在のナルトだった。
「…バカじゃねぇの」
布団から覗く寝顔が、心なしか苦しそうに見えるのは、熱があるからかもしれない。
そっと額に手をあてると、じっとりとした熱さが伝わってくる。
「…チィッ」
〔何でナルトなんかの面倒をオレが見なくちゃなんねぇんだよ〕
内心でそう毒づくものの、その一方で用意するものを考え始めている自分に、サスケは眉をしかめる。
〔仕方ねぇだろ?見ちまったんだから。…それに、チームワークは大事だって、カカシの野郎も言ってたし〕
言い訳の責任転嫁先を見つけたサスケは、その転嫁先が言った言葉に勢いづく。
〔そうだ。コイツも一応仲間だからな。任務中に足引っ張られたら困るからな〕
そう自分を納得させると、サスケはナルトを起こさないように静かにベッドの傍を離れた。
「あー。くそっ。何もねぇのかよ」
ナルトの家の台所に立ったサスケは、途方に暮れたように散らかった周囲を見回した。
ナルトが寝ているうちに食事を作ろうと思って開いた冷蔵庫には、牛乳があるだけ。
それならばと、戸棚や引き出しを開ければ、あるのは食パンとカップラーメンだけだった。
「いつも何食ってやがるんだ?ナルトの奴は」
自分も独り暮らしではあるが、コレよりは断然マシだと思う。
「何より米がねぇ」
味噌も醤油もない。
というか、炊飯器もない。
調理器にしても、片手鍋とヤカンがあるだけ。
包丁もまな板もないとくれば、これでどうやって調理しろというのか。
というか、料理なんかしてねぇだろ、と突っ込みたくなる。
「ろくなもん食ってねぇから風邪なんかひくんだ」
苦々しく言葉を吐き出しながら、サスケは今日の任務後の会話を思い出す。
今日の任務も無事終了。
「はい、解散」
いつものようにカカシが告げて。
いつものようにサクラの誘いも断わったサスケに、
「サスケ、今日はどうするってばよ?」
いつもとは違って、明らかに熱を持った頬が赤くなっているのに、ナルトは修業の話を振ってきたのだ。
「お前…」
「何だってばよ?」
見ている第三者が熱があるとわかるのに、当の本人に自覚がないとはどういうことだ?
それとも、いつものナルトの意地かと思えば、そうでもなく。
「風邪じゃねぇのか?」
「?」
本当に自覚が無いらしいことに気づいて、段々腹が立ってきた。
そうして気づけば、ナルトの家に当人を引きずって来て、その性格を逆手に取って熱冷ましの丸薬を飲ませた。
その後、二人で巻物を読んでいたのだが、薬が効いたのか眠ってしまったナルトをベッドへと担ぎ上げたのが、ついさっきのことだ。
風邪なのだから、消化のいいものを食べさせなければならないというのに…。
食パンとカップラーメンと牛乳で、消化のいいものなんて作れるか?
自問自答しながら、サスケは再び調味料探しに取りかかった。