ナルサス部屋
□ホットミルク〜その後
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【ホットミルク〜その後】
「よう、サスケ」
報告書を提出した廊下で、サスケはシカマルに呼び止められた。
「なあ、ナルトの奴、落ち込んでなかったか?」
一切の前振りもなく口を切ったシカマルに、サスケは眉をしかめる。
「今回の任務で一緒だったんだがよ。…大名の跡継ぎ警護だったことは、聞いてるか?」
「…まあ、な」
「五代目直々に指名されてよ。次期火影の顔を売るってのもあったんだろうけど」
「それでお前が付いたのか」
“次期火影”と目されるナルトと、その“補佐役”と目されるシカマルが就いた大名の跡継ぎ警護。
大名と忍里の関係は、里を維持する上でも重要だ。
「同じ次期補佐役なんだから、拗ねんなよ。つーか、お前が別任務だったからだろ」
幾分不機嫌そうなサスケの言葉に、シカマルは防衛線を張る。
「そうじゃない。ガキにほだされたガキを、野放しにするな」
「は?」
一瞬、何のことかと考えたシカマルは、その次には笑い出した。
ガキ=幼い跡継ぎにほだされたガキ=ナルトを、放っておくな、と。
「…酷ぇ言い種だな。…だがな、ナルトが落ち込んでたのは、跡継ぎと離れたからじゃねぇ。元凶はお前だと思うぜ?サスケ」
「?」
「まだガキの跡継ぎに同情するのは、ナルトのパターンだよな」
異論の余地もないので、サスケはうなずく。
「だがよ。そのガキが“家族を亡くした”上に“独り”で」
「…」
「やっぱ大名家だからな、それなりに“名門”だよな」
「……」
「オマケに“黒い髪”で“黒い目”だった訳だ」
「………」
沈黙を続けるサスケに、シカマルはチラリと視線を走らせる。
「それでナルトの奴は、誰かさんを想い出した」
帯電するように震え始めた空気に耐えながら、シカマルは言葉を続ける。
「ナルトの奴、何か言ってなかったか?」
「……あの馬鹿」
ぼそりと呟いたサスケに、シカマルはバレないように内心でため息をつく。
〔この様子じゃ、もう一悶着あったな〕
任務の帰路だというのに、いつになくどんより落ち込んでいたナルトを見ていただけに、シカマルとしてはフォローしてやりたかったのだが。
如何せん。
ナルトの行動の方が早かった訳で。
その実裏を返せば、シカマルの予想も当たっていたということで。
「んーな、怒るなって」
不穏な空気を纏い始めたサスケに、シカマルは苦笑するしかない。
「…」
その一方で、サスケは昨日のナルトの言葉を思い出していた。
『サスケは…、寂しく、ない?』
『寂しいって、思ったりしねぇ?』
あれは、本当の意味での問いだったのだと、サスケはようやく気づいた。
「だからよ、サスケ。あとは任せたからな」
「…?」
突然話を切り上げたシカマルを、サスケは怪訝そうに見やった。
「アイツのメンタルな部分は、お前じゃなきゃダメなんだからよ」
「な、!?」
「じゃ、そーいうことで」
「おい!」
焦ったようなサスケの声を綺麗に無視して、シカマルは踵を返す。
〔ヒトサマの恋馬に蹴られてやるほど、俺も暇じゃねぇからな…。あーめんどくせぇ〕
一応言うことは言ったし、とばかりにシカマルは報告書の提出に向かった。
「……はぁ」
ひらひらと手を振って去っていくシカマルの姿が完全に見えなくなってから、サスケは呆然と深いため息をついた。
てっきり、警護した幼い跡継ぎに情を残してきたのだと考えていただけに、ナルトの言葉も、それを前提としたものだとばかり思っていた。
もし、シカマルに言われなければ、ずっとそう思ったままだっただろう。
そして自分はまた、ナルトのほだされやすい情に、苛立ったままだっただろう。
〔…俺のこと…だったのか…〕
『だから、そうだってばよ』
不意に浮かんだ台詞に、サスケは微笑む。
〔最初から、そう言え〕
『言ったってばよ』
拗ねたように頬を膨らませるナルトが想像できてしまうから、笑ってしまう。
そして、そんな自分にも。
〔ガキなんか見て、思い出してんじゃねぇよ。俺はガキじゃねぇんだから〕
“名門”で“家族を亡くし”て“独り”残された“黒い髪”と“黒い瞳”の子供。
そうあるパターンではないかもしれないが。
一緒に見られるのは、癪だ。
自分は自分。
他の何者でもないのだから。
『サスケは、寂しく、ない?』
〔そんなこと思ってる暇なんかねぇよ。…お前みてぇな馬鹿の面倒見てんだから〕
『サスケェ』
泣き出す寸前のような、情けない笑い顔で、ナルトが名前を呼ぶ。
〔ヒトサマの心配する暇があったら、とっとと帰ってきやがれ〕
「…ウスラトンカチ」
声に出してしまえば、あっけないほど逢いたくなった。
どうせナルトのことだ。
サスケが家を出た時のまま、居座っているだろう。
帰ったら…。
何と言おうか。
〔…シカマルから聞いたことは、黙っていよう〕
自分の勘違いに突っ込まれるのも、癪だ。
でも…。
ナルトの食べたいと言う物を、作ってやってもいい。
それくらいには、気分が良いから。
くすり、と笑って、サスケは歩き出した。
ナルトが居座っているであろう、自分の家に向かうために…。
了
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