宝物殿

□頂き物(ナルサス)
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ふう、溜め息を吐息に紛らせてそっと押し出した。

『溜め息なんか吐いちゃって』
「…ああ‥。すんません」

師のからかう口ぶりにも思わず息を吐きそうだった。

ちらり、と部屋の奥を見やると年下の恋人が乱雑に脱いだシャツを放り投げた光景を思い出す。広いとは言えない部屋でそれはすぐに壁に当たり落ちた。行方を追っていた目がその顛末を見届けて力が抜けたらしいのも。

しゃがみこんでうなだれる姿が妙に可愛いかった。

あのまだ発展途上の身体。更なる成長が見てとれる骨太の身体つきは、しっかりと筋肉もつき同年代と比べれば十分だと言える。しかしそれはあくまで同年代と比べれば、の話であって彼と同じ世界に住む猛者と並べばまだまだでもある。細身の身体つきではあまり信用を得ない業界だからこそ余計だ。その後天性の負けん気で日々成長していく心と体。本人にも告げたが十年後が楽しみ、そんなところなのだ。

『…で?今回はナルトは何して怒らせたのよ?』
「…‥別に怒ってるんじゃないですよ、オレは」

サスケは決して怒っているわけでは無かった。それはナルトも悟っているだろうが。いや、悟っていてもらわわねば困る。

今サスケとナルトの間にある距離感は離れていた十年と始めから離れている十二年からくるものだ。出会ったとき、サスケは既に大人で、相手はやっと思春期に入ったような子供だった。

更にサスケはその相手の成長過程を実際に目にしたわけでは無い。サスケですらそれを痛感するのだから、ナルトからならもっと大きい。

どうして実ったのか分からない恋だった。

十年前相手は十二も下の子供で、十年前相手は十二も年上の大人で。

だから楽しむ筈の駆け引きの中に余裕のなさから来る焦りが含まれてしまう。

サスケもその焦りを多少なりとも感じているとはナルトは知らないだろう。このまま歳の差を生かすためにも気づかないで欲しいと思う。

「…‥カカシさん」
『なによ?』
「…‥子供が知っていた大人を思い続けるのと、大人が知っている子供を思い続けるのは、後が無い分実は大人の方が緊張を持っているんです」

へえ、と電話口の向こうから呑気な相槌が打たれる。

「…‥今、ナルトは?」
『会合中。んー、…‥七時には帰すよ』
「…‥」

行動を読まれた聞いてもいない返事を寄越されてサスケは苦笑した。これだから自分の幼い頃からを知られているのは。






恐々と灯かりの洩れるドアを引く。惚れた弱みなのかどうにも愛しい年上の恋人相手にはいつもの強気に出られずにいる。それはこれからも変わりそうにもなく。

自分は、他人からは図太いだのなんだの総じて性格が厚かましい、とよく評価されている。「アンタはほんといい性格してるわよね、ナルト」など初恋の女性に呆れたように言われることもある。

しかし、どうも彼相手には本領発揮など出来そうにない。そういうことをしようと思わない相手だからこそかもしれないが。

つまりはサスケはナルトが唯一顔色を伺う人間だと言える。

「…‥まだ怒ってるか、な」

まだ腹を据えていないことを自覚して開けたドアをそろそろと閉めた。軋まぬように注意を払いながら、長いとは言えない廊下を進み自室へと滑りこむ。

後ろ手にドアを閉めた自分に気づき、がっくりと肩が落ちた。

ネクタイをほどき上着を脱ぎベルトを引き抜いてシャツを引っ張り出すと、床に落ちたもの全てを抱え直し放り投げた。

バックルが床に当たる硬質な音が耳に入る。どうせ片づけるのは自分だが、それを今やる気は起こらない。

「…‥だー、っくそ」

こうなりゃ当たって砕けろってんだ、やけくそに呟きソックスも脱ぎ捨てる。

いや、砕けては駄目だ。砕けてどうする。けれどしかし、ナルトに余裕は無く。

今度もまた、無意識に気配を消してリビングに続くドアの前に立ってしまった自分を情けなく思い、その自嘲を残したまま、そっとそれを開いた。

目的の人物は広くはない室内にあっさりと見つかった。昼と似た、湯を沸かす台所に立つ後ろ姿。

視界の中心にその姿を置いてゆっくりと近づいていく。

最後の三歩が速まったのは、その後ろ姿が振り返ろうとしたからだ。

「…‥ナルト」
「…‥」

筋肉はあるが骨の浮いた細い腰に腕を回し逃がさないようにがっちりと組んだ。顔を見よう、とされるのもその首筋に額を擦りつけることで阻止する。

ひとつ、息を吐いた愛しい人の所作に身体がびくりと強張る。

「…まだ‥怒ってるってば?」
「…‥違う、ナルト。…‥オレは最初から怒ってない」
「…怒ってた‥」
「怒ってない」

断定する口調に押され黙ったナルトは続いた言葉に驚いた。

「拗ねて見せてただけだ」
「は?」
「オマエが、予定が入ってた、と言うから」
「…予定?」
「オレは今日、オマエは昼からずっとうちにいるんだと思ってたよ」
「サスケ、」
「言ってくれればいいんだ。一言でも、ごめんとか。あんなにあっさり言われたら待ってるこっちは寂しいんだよナルト」
「…‥ん」

さらりと胸の内を明かしてくれるのに胸が詰まった。こういう度に経験の差を感じてしまう。

多分、今だって甘えられているのだ。甘えてくれている。それは単純にうれしくて。

ループを繰り返しそうな思考を振り払うように、額をぐりぐり押しつけると甘い恋人独特の匂いがした。すん、と鼻を鳴らしてそれを味わう。

「サスケ、」
「ん」

身体を反転させて唇を奪った。触れるだけの子供のようなキス。幾度も、幾度も。そのうちそれは深いものへと変わり、サスケの手がナルトの少し堅い金髪に差しこまれ、ナルトの手が服の上からでも実感できる柔らかな尻を揉む。ナルトの不埒な手がシャツにかかったとき、ちゅ、と唇を離してサスケが笑った。

「…スーツは何処に捨てた?」
「…部屋」
「後で片づけろよ?」

その素直に嬉しそうな、艶やかな笑みに頭がかっと湧いた。



手の上で転がされるのさえ本望。









一人称でやたらと人が変わってすんません。

年下の甘え方は万歳すること。
年上の甘え方は隙を見せること。

が、テーマでした。
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