それゆけ!!アンパンマン!!

□正義の味方
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静かな午後の昼下がり。
いつもと少し違うのは、雨が降っているということだけだった。
「……最悪だな」
森の中の大きな木の下。低い声で悪態をつくのはたった今までPatrolをしていたアンパンマンだ。雲行きが怪しくなったのに気付き、木の下に逃げ込んだ途端雨が降り始めたのだった。
雨の日のアンパンマンは機嫌が悪い。身体もだるくなり、気分もすぐれないからだ。
「……止むまで時間がかかりそうだな」
溜め息混じりに空を見上げるが、そこには灰色の雲しかない。ただの通り雨ではないようだった。もしかしたら本格的に降ってしまうかもしれない。
草木や農作物には嬉しい雨だが、アンパンマンには苦痛でしかない。
――こんな日にPatrolなんて最悪だな――
いくら悪態をついても雨は止む気配を見せず、アンパンマンは更に機嫌が悪くなる。
「バイキンマンに逢いたいな……」
ポロッと出た本音。
相当雨に参ってしまった証拠かもしれない。
だが、誰も助けに来る気配はない。当たり前のことだ。アンパンマンは助ける側なのだから。


――じゃあ、アンパンマンの正義の味方は誰?


「バイキンマンにメイド服着せて犯してぇ…」
「ッ馬鹿!!そんなこと絶対しないからなッ!!」
アンパンマンの小さな呟きに羞恥を含んだ声でツッコミを入れる声が聞こえた。
アンパンマンが訝し気に振り返ると、たった今逢いたいと思っていたバイキンマンが、顔を真っ赤にして目を吊り上げながら立っていた。
「……本物?」
突然の展開についてゆけず、アンパンマンが小さく呟くと、バイキンマンはスタスタとアンパンマンに近寄り見上げてくる。
「本物に決まってんだろッ。偽物なんかどこにいるんだよ」
頬を膨らませ言い切るバイキンマンを見、ようやく本人と解るとアンパンマンの頬が自然に緩んだ。
手を伸ばすとバイキンマンの漆黒の柔らかい髪に触れる。優しく頭を撫でながらアンパンマンはゆっくりと口を開いた。
「なんでこんなところにいるの…?僕は今闘えないんだけど」
それとも奇襲かな。と苦笑いするとバイキンマンは「んなことするかッ」とすぐに切り替えしてきた。
「じゃぁ何故?散歩?」
アンパンマンが問うと、バイキンマンは答えずらそうに下を向き言葉を濁す。
言葉を促すようにアンパンマンはバイキンマンの腰を引き寄せ額にキスを落とす。
小さな身体の少し高めの体温にホッとする。

「…雨、降ってるから」
ようやくバイキンマンが小さく呟き、アンパンマンは顔を覗き込む。すると頬を赤らめ、バイキンマンは必死に言葉を紡ぐ。


「…パ、Patrolの時間……雨降って…きたか、ら…」


アンパンマンは言葉の意味を理解し、僅かに目を見開く。
そしてゆっくりと問い掛けた。
「……心配して、来てくれたんだ?」
「……アンパンマンの、弱った姿を見に……」
バイキンマンの返事を聞かず、アンパンマンはバイキンマンをその胸に閉じ込めた。
ありったけの愛を込めて、顔中にキスを贈る。
「んッ…アンパ……」
始めは赤くなって抵抗していたバイキンマンもそのうち大人しくなり、頬を桃色に染めながらアンパンマンの背に腕を回す。
「嬉しいな……ありがとう、バイキンマン」
「………」
バイキンマンの顎を掴み視線を合わせ軽く唇を啄み、触れ合ったまま低く囁いた。
「……ぁ、アンパンマン……濡れる……」
葉から落ちてきた雫がアンパンマンの茶色い髪を濡らす。それに気付いたバイキンマンは手を伸ばし軽く払ってやった。
「……バイキンマン号、近くにあるから」
クイクイとアンパンマンの腕を引きながらバイキンマンは自分のUFOを指差した。そこには確かにバイキンマンが乗っているバイキンマン号がスタンバイされていた。
「乗せてくれるの?」
「きッ貴様に借りを作らせてやるんだ!」
赤くなって言い放つバイキンマンを見て更にアンパンマンの頬は緩む。
「でもアレ、一人用じゃないの?」
アンパンマンが素朴な疑問を呟くと、バイキンマンはその事実に初めて気付き足を止める。しかしここまで言ってしまった手前、引っ込みがつかなくなりやけくそで叫んだ。
「頑張れば乗れる!!」

手を引かれるままアンパンマンはどう見ても一人用のバイキンマン号に乗った。
中は様々なボタンがあり、バイキンマンが一生懸命に改良を重ねていることがわかった。
「…で、君はどうす……」
アンパンマンが問い掛けながら顔を上げると、バイキンマンはポスンッとアンパンマンの膝の上に納まった。
アンパンマンが後ろから抱きしめる構図そのもの。
「ほら、こうすれば二人乗れるじゃん」
得意気にバイキンマンが言うとそのまま操縦し始め、二人を乗せたバイキンマン号は宙に浮いた。

――無防備だなぁ……

アンパンマンは、仮にも敵である自分に簡単に背中を預けているバイキンマンを見て苦笑を浮かべた。
当のバイキンマンは鼻唄を歌いながら操縦を続ける。

アンパンマンが何も言わず腰に腕を回して身体を密着させると、バイキンマンがビクッと震え顔を赤くしながら振り返る。
「さわんなッ」
「狭いんだから、仕方ないでしょ」
バイキンマンが手を離せないことをいいことに、アンパンマンはその白いうなじに顔を埋め、朱い痕をちりばめる。
「ンッ……何、してんだよ」
「何って、僕のモノって印つけてるの。消えかかってるからね」
「んなもんつけるなッ」
チクチクと感じる、痕のつく感覚に顔をしかめつつバイキンマンは操縦を続ける。その手捌きはプロそのもの。アンパンマンは感心しながら再度バイキンマン号の内部を見回した。
所狭しとボタンやレバーが並んでいる。アンパンマンにとっては何が何だかわからないが、バイキンマンにはわかっていて、使いこなすことも出来ているのだろう。
「ホントに僕のこと、倒そうとしてるんだね」
「当たり前だろッ」
クスクスと笑いながら言うとバイキンマンの怒った声が間髪入れず帰ってくる。
「それは困ったなぁ」
苦笑混じりで呟きバイキンマンの耳朶を甘噛みすると、その小さな身体はピクンッと可愛く跳ねる。

――ホントにバイキンマンって可愛いな――





「……アンパンマン、パン工場に送ればいいのか?」
アンパンマンの悪戯をうざそうに払いながらバイキンマンは振り返る。その目は少しばかり釣り上がっていた。
「う〜ん…バイキンマンの城がいいなぁ。……もうちょっと一緒にいたいし…ね」
最後の言葉を耳元で低く囁くとバイキンマンは真っ赤になって「……仕方ないな」と呟き方向を自宅に向けスピードを上げた。


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