それゆけ!!アンパンマン!!

□ぬくもり
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あんなやつ、正義の味方でも何でもない。

みんなみんな、騙されてるんだ。


「今日こそお前の化けの皮を剥いでやる!!」
森の中で、アンパンチを受けて壊れたバイキンマン号を横にバイキンマンは高らかに宣言した。
目の前で優雅に腕を組むアイツを指差しながら。
「…またそんなこと言ってるの?」
カタチのいい唇から溜め息を吐き、柔らかい髪を欝陶しそうに払いながら指を差されたアイツ……アンパンマンは鬼畜な笑みを浮かべた。
「今日はもう諦めたら?街中で悪さした君を手加減したアンパンチでここまで飛ばしちゃったし」
手加減、という言葉にアクセントを付けながらアンパンマンはバイキンマン号に近付くと、その長い指でゆっくりと傷をたどる。
「あぁ……予想以上に傷付いちゃったね…次はもっと力を調節するよ」
「さわんなっ!」
慌ててアンパンマンの指を払うと精一杯威嚇しながらバイキンマンはアンパンマンを睨み付ける。
つり目気味だが大きめのくりくりとした目で睨んでも、アンパンマンには威力はないが本人は気付かない。
「手加減とか調節とかいらねぇんだよ!次は絶対倒す!バイキンマン号だってパワーアップするんだッ」
力強く言い放ち、バイキンマンはアンパンマンに背を向けるといそいそと修理し始める。バイキンマン号を直さなければ家にも帰れないのだ。


バイキンマンが修理している間、アンパンマンはその長い腕を優雅に組み、木に寄り掛かり微笑みながら作業を見つめていた。
――やりずらい……
バイキンマンは背中に視線を感じながら修理を続ける。先程から失敗ばかりするのはアンパンマンを意識し過ぎるせいなのだが、本人にはどうしようもない。
――帰らないのかな…
「……ねぇバイキンマン、何故君は僕の化けの皮の剥がしたいんだい?」
考え事をしていると突然話し掛けられ、バイキンマンは驚きビクッと体を震わせ振り返る。
「な……まだいたのかよ。さっさと帰ればいいだろ…みんな待ってる……」
「バイキンマン。それは僕が聞いたことの答えになってないよ」
途中で遮られた事に少し苛立ちながらも、微笑むように見つめるアンパンマンの目を見ると赤くなり慌てて目を反らしバイキンマンは言葉を紡ぐ。
「……何でって?そりゃ、みんなが正義の味方だって信じてるんだぜ?そのアンパンマンが実はこんな奴だって知れば、仲間外れにされるだろ!」
ハンマーを持ち直すと再び修理をし始めアンパンマンに背を向ける。
……見とれてなんかいられない……
「馬鹿だなぁ…バイキンマンは。君が何を言っても信じてもらえないよ?日頃の行いが良くないからね」
「うるせぇ!…見てろよ、絶対化けの皮剥いで、俺の手下にしてみせるぜ!」
言い切るとそのままバイキンマンは自分の世界に入っていく…

化けの皮が剥がれ街中の人がアンパンマンを嫌い、バイキンマンを信じだす。
「やっぱりバイキンマンは正義の味方だったんだね!」
街中の人の羨望の眼差しが注がれる中、皆の信頼を失ったアンパンマンはバイキンマンに駆け寄り、
「バイキンマン、弟子にしてください!!」
と頼み込み、バイキンマンの手下に……
「なるわけないでしょ」
無意識に声に出し呟いていたバイキンマンに溜め息混じりにツッコミを入れ、アンパンマンはすらりとした足でバイキンマンに近付くと体を屈め額にデコピンをくらわし。
「いたッ……なにすんだよっ!」
「夢じゃなくて現実を見ることをお勧めするよ。そんなことになるわけないでしょ」
「絶対なる!お前は俺の手下になるんだッ」
額をおさえながらもバイキンマンは目の前の柔らかな瞳をキッと睨みつける。

――手下になれば……


「さっきからその顔ばかりだね」
睨みつける瞳を見て溜め息を吐くとアンパンマンは自身の指でその頬をゆっくりと撫でる。
「…ッお前がいるから」
「悲しいな……僕はこんなにも君が好きなのに」
「ッ!!」
さらりと告白するとバイキンマンは顔を真っ赤にさせて目を反らす。その様子が可愛くてアンパンマンは相手を腕の中に閉じ込め耳元に唇を寄せる。
「……好きなんだよ?」
低く囁くとそのまま唇を移動させ、相手の漆黒の柔らかい髪を撫でながら唇を相手のそれに重ね。
「……ん…」
ギュッと瞳を閉じ僅かに抵抗するもすべて無効。まるであやすように優しく、時折啄むような口づけに徐々にバイキンマンの体からも力が抜ける。
「……ぁ…」
抵抗がなくなりバイキンマンが静かになると、舌を差し込み相手のそれと絡め。
「…!」
僅かに水音を響かせながら徐々に口づけを深くしていく。バイキンマンの口腔にある性感体を知り尽くしているアンパンマンが確実に刺激を送ると、バイキンマンの息が次第に荒くなり、縋るようにアンパンマンに手を伸ばすとギュッと服を握りしめ、必死に舌を絡めるようにする。
「…はッ…ン……」
健気なその姿に口端を上げるとアンパンマンはバイキンマンの背中に手を這わせ抱きしめ直す。
「…ンぁ……」
飲み込み切れなかった唾液を零しながらゆっくりと唇を離し、ぼぅ…とした瞳でバイキンマンはアンパンマンを見上げる。そんなバイキンマンに目を細めながら顎まで零れた唾液を舐めとり、アンパンマンはバイキンマンのその潤んだ目尻にキスを落とす。

――まるで愛し合っている恋人同士のように――

「好きだよ……バイキンマン」
再度呟き額に軽く唇を落とす。バイキンマンは顔を赤く染めたままゆっくりと唇を開き……
「…お、れ……」
「アンパンマーン!!」
聞き取れないくらい小さな声を突然の叫び声が遮った。その声で我に返ったバイキンマンは唇を噛む。

――今、何を言おうとした…?

「……街の方かな」
アンパンマンは溜息混じりに呟くとやんわりとバイキンマンを体から離し、さっさとマントを翻す。
「またね。バイキンマン。風邪を引くと悪いから早く帰るんだよ」
軽く微笑みそのまま飛び立とうとバイキンマンに背を向けた。
――行っちゃう―――
ぐいっ
「…ん?」
飛び立とうとしたアンパンマンがマントを引っ張られていることに気付き振り返ると、バイキンマンが切なそうに見上げていた。
その手にしっかりとマントを握りしめながら。
「………」
「………」
縋るような瞳をアンパンマンに向けるバイキンマンは、自分がマントを掴んでいることに気付いていないらしく、ただ見上げながら唇を震わせている。
そんなバイキンマンに一瞬目を見開くがすぐに柔らかい笑みを浮かべたアンパンマンは、体ごと再びバイキンマンに向き直る。
「……まったく…バイキンマンは罪な程可愛いね」
目線を合わせるように屈むとようやくバイキンマンは我に返り、数回瞬きし顔を赤くしてアンパンマンを睨みつける。
「可愛いわけないだろ!……正義の味方なんだろ?さっさと行けよッ!」
ギャンギャンと喚くバイキンマンの頭をひと撫でするとマントを掴んだ手に優しく手を重ね。
「……行きたいのは山々なんだけど、このままじゃ飛べないんだよね」
「!!!」
ようやく自分がマントを掴んでしまっていたということに気付いたバイキンマンは慌てて手を離そうとするが、上からアンパンマンが握りしめているため離すことが出来ない。
「こんな可愛いことされると行きたくなくなっちゃうじゃん」
「……ッ離しやがれっ」
真っ赤になりながらジタバタするバイキンマンに頬を緩めながらアンパンマンは強引にその細い体を腕に閉じ込める。
「……寂しい思いをさせてごめんね」
「…!………離せ…寂しくなんかないッ」
バイキンマンは体を引き離そうと服をひっぱるがアンパンマンは更にきつく抱きしめる。その力強さに抵抗するのを止めるとアンパンマンはバイキンマンの耳元でゆっくりと唇を開いた。
「……好きなんだよ?本当に」
「………」
キュッとアンパンマンの服を握りしめ、バイキンマンは自分からその胸に顔を埋める。

大好きなそのぬくもりを少しでも長く感じていたいから……

黙ってくっつくバイキンマンを優しく見下ろし、その柔らかな漆黒の髪をゆっくりと撫で軽いキスを落とす。

――このまま抱きしめていたいが呼ぶ声を無視するわけにはいかない――

軽く息を吐くとバイキンマンの肩を掴み優しく体を離し、まだ少し潤んだ瞳に笑いかける。
「……じゃあもう行くからね。風邪、引かないように早く帰るんだよ」
額にキスをし頭を撫でるとバイキンマンは素直に頷く。
その仕草に満足したアンパンマンは着ていた上着をバイキンマンの肩にかけると飛び立つ準備を始める。
「…俺様にこれ渡したら、貴様が寒いだろ」
バイキンマンは一旦バイキンマン号に戻ると自分用のマフラーを手にしてアンパンマンの首に巻き付けてやった。
バイキンマン用の黒いマフラーはアンパンマンには似合っているとは言い難かったが、アンパンマンは嬉しそうに破顔しお礼も兼ねてバイキンマンの唇にキスを贈った。
「明日、君の城に行くから。予定入れちゃダメだよ?」
「うちに??何しにくるんだ?」
アンパンマンは意地悪そうな笑みを浮かべ、可愛く首を傾げるバイキンマンの耳元に唇を寄せた。

「バイキンマンはキスだけじゃ満足出来ないでしょ?今日は最後まで出来ないから、明日ちゃんと埋め合わせするよ」
クスクス笑いながらそう囁いたアンパンマンはバイキンマンの耳朶を甘噛みし、そのままマントを翻して宙に浮いた。
「……ッばか!このエロ魔神ッ!!」
時間差でようやく理解したバイキンマンは顔を真っ赤にして、飛び立つアンパンマンに精一杯の罵声を浴びせる。
そんなバイキンマンを微笑ましく思いながら、アンパンマンは振り返らず飛び去って行った。



「……まったく。あれで正義の味方だなんてホントに詐欺だ」
飛んでいくアンパンマンを最後まで見送りながらバイキンマンは小さく呟くと、肩にかかった少し大きめの上着に腕を通してまだ残るアンパンマンの暖かさに頬を緩める。
――甘い匂いがする――
嗅ぎ慣れたアンパンマンの匂いを感じると無意識に更に笑みが零れた。
「ふぅ……早く帰らなきゃ」
気を取り直してバイキンマン号に向かうと今度は集中して修理を始める。

――今度は何を仕込んでおこうか。アンパンマンを倒す方法は?

次回の奇襲のことを考えるバイキンマンの顔は真剣そのもの。どんなに敗れても諦めるわけには行かなぃのだ。


だってアンパンマンを手下にすることが出来れば……


あいつは誰が叫んでも飛んでは行かない。



―――いつでも俺様の傍に……


決意を新たに、直ったバイキンマン号に乗り込むバイキンマンは明日のために部屋を片付けようと意気揚々と帰っていった。



後日、バイキンマンがどんな埋め合わせをしてもらったかはまた別の話……




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