・物語・
□アリスのめがね
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6畳ほどの散らかった部屋の片隅に、ちょっとしたベッドが置いてあった。
ふかふかのベッドマットの上には、ぐちゃぐちゃに丸められた布団と脱ぎ散らかした服、お菓子の袋、そして女の子がひとり。
清潔な純白の壁紙にはとても不釣合いな、汚い身なりだった。
開け放した窓からは朝10時過ぎの爽やかな風がさらりと吹き込み、レースのカーテンを泳がせていた。
「んー・・」
ベッドの上に大の字になっていた彼女が、もそり、と起き上がる。
(今、何時だ・・)
壁に目を向ける。買ったばかりのメタリックなアナログ時計の輪郭がぼんやりと見えた。
暫く、時計と見つめ合う。
「んー・・」
ぼりぼりと左手でショートカットの髪の毛をかきながら、ベッドサイドテーブルに手を伸ばす。
(めがね・・)
暫く、テーブルの上で手をもぞもぞさせる。
(・・あれ)
サイドテーブルに目をやると、そこには何もなかった。
また、暫くテーブルと見詰め合う。
「っんー・・はああー・・」
面倒臭そうに欠伸と背伸びを一緒にすると、よいしょ、とベッドから降りた。
(めがねどこ置いたっけかな・・部屋汚いからよくわかんないや)
彼女は視力が相当悪かった。だから、めがね無しではほとんど何も見えない。
テレビの裏、本の山の陰、衣類の山の中、探してもよく分からない。
しかも歩く度、脱ぎ捨てたTシャツやコートが足に絡まる。
「痛っ!」
転がっていたビー玉を土踏まずでふんずけた頃、仕方なく自分ひとりで探すのをやめた。
(お母さんにさがしてもらお)
四つんばいでドアに向かい、なんとか取っ手を掴み、ドアを開ける。