SHORT
□なんなりと
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「…………あれ」
その日、リビングに置きっぱなしになっているランチボックスを見つけて、綱吉は思わず呟いた。
「スクアーロ……、忘れて出掛けちゃったのかな」
ヒョイと持ち上げたランチボックスの中には、TPOをわきまえず、突然腹を空かせるザンザス用に、あらゆる肉が準備されている。
学校でザンザスが暴れださないように、スクアーロがいつも持っていっているのだ。
「うーん……」
ボックスと、傍らに置かれた掃除機を交互に見る。
それから時計を見ると、針は、もうすぐ11時を指していた。
そろそろ、ザンザスのお腹の虫が目を覚ます頃である。
「……よし、」
呟くと、綱吉はつけていたエプロンを脱ぎ、自分の部屋へ向かった。
「届けに行くんだから、良いよね」
財布を鞄に突っ込み、ふっ、と笑う。
実のところ、ランチボックスを見つけた時から綱吉の気持ちは決まっていた。
リボーンの弟子として生きてきた綱吉は、学校、というものに通った事がなかった。
必要最低限の勉強はリボーンが教えてくれたし、世界をまたにかけるヒットマンであるリボーンと一緒にいる以上、一所に留まるのは無理があった。
事情はわかっているから、我が儘を言ったことはなかったけれど、テレビで見る、『学生』、というものに対する憧れは未だに綱吉の中にある。
友情、青春、恋愛。
どれも、綱吉には経験のないものだ。
だから正直なところ、ザンザスとスクアーロが通う『学校』、というものを一目見てみたいと日頃から思っていた。
そして出来ることなら、大勢で受ける授業や、部活動、というものを生で見てみたい。
「女子高生、もいるのかな……」
そんな不純な動機もあり、綱吉はランチボックスをひっつかむと、鼻歌混じりに家を後にした。
「…あ、そういえば学校名なんだっけ」
(へいタクシー!!)