SHORT
□なんなりと
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やってしまった。
綱吉の心境を一言で表すとしたらコレだ。
周りから突き刺さる、いくつもの悪意を持った視線に、綱吉は青くなった。
しかも、とうのザンザスはというと、殴られた頬に手を当てながら、未だ放心状態である。
だがしかし、正気になったところで、綱吉が此処から無事に帰る可能性が、さらに低くなることは必至だ。
背後の団体から、「制裁だ」、だの、「殺せ」、だのという、不穏な言葉が溢れ出す。
いくらなんでも、こんな大人数相手では、綱吉も無事では済まないだろう。
打たれ強さには定評のある綱吉だが、だからといって、痛いのが大丈夫という訳じゃないのだ。
恐い……。
綱吉は俯くと、奥歯を噛み締めて、熱くなる目元に力を入れた。
綱吉だって男だ、人前で泣くなんて、せめて、そんな失態はおかしたくない。
うつむいた綱吉の手を、ふいに誰かが引いた。
「え……」
顔を上げると、何故かさっきより落ち着いた顔をしたザンザスが立っていた。
思わずキョトンと見上げる。
「ザン、ザス……?」
ザンザスは、チッ、と舌打ちをした。
かと思うと、いきなり屈むと、綱吉の身体を持ち上げた。
俗にいう、お姫様抱っこというやつで。
「なっ……!」
ザンザスは家で、よく綱吉をこうして運ぶ。
小柄な綱吉を持ち上げることは、ザンザスにとって造作もないのだろうが、綱吉としては、こうして運ばれる度に、男としてのプライドがズタボロだ。
しかも、今ここは家ではない。
綱吉は、先ほどの恐怖も忘れて真っ赤になった。
「ちょ、ザン……」
抗議しようとザンザスを見上げたら、後頭部に手がまわってきて、グイと引き寄せられた。
言葉が途中で切れる。
ドアップのザンザス。
目を見開く。
唇に、いつもの感触がした。
その場にいた全員が、確かに、時が止まった、と思った。
唯一平然としているザンザスが、ゆっくり頭を上げると、目線だけを回して全員を見た。
「おいカスども…、よく聞け」
それはまるで、一国の王様のような風格だった。
皆、言葉も忘れて、ザンザスを見上げていた。
そんな周りをそっちのけで、ザンザスは綱吉の身体を引き寄せると、ギャラリーを睨みながら、宣言した。
「こいつは、俺のだ。手ぇ出したドカスは、かっ消す」
終始、綱吉は真っ赤になって固まるしかなかった。