SHORT
□なんなりと
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ボンゴレ学園までお願いします、と言うと、タクシーのおっちゃんが驚いた顔をした。
「…兄ちゃん、あそこの関係者かい?」
「え?…あ、いえ、えっと、知り合いが通ってて…」
慌てて返事をすると、おっちゃんは綱吉をジロジロ見て、それから、「あぁなるほどね」、と呟いた。
何が「なるほど」、なんだろうか。
ヘラっ、と愛想笑いをしながら、後部座席に乗り込む。
おっちゃんはそれ以上何も言わず、ドアを閉めて車を発信させた。
流れる景色を見るともなしに見ながら、綱吉の思考はポヤポヤと空中を漂っていた。
今自分は、憧れの学校へ向かっているのだ。
顔がにやけそうになるのを、必死に押し殺す。
そのせいで、今の綱吉の顔は、形容しがたい面白い顔になっているのだが、生憎、それを見たのはタクシーのおっちゃんだけである。
走ること20分程で、綱吉を乗せた車は無事目的地に到着した。
綱吉の予想に反して、ザンザスたちが通うボンゴレ学園は、山の中にあった。
回りには木ばかりで、聞いたこともない鳥の声が響いていた。
背後でバタンとドアがしまり、タクシーの去っていく音がする。
「嘘だろ……」
ランチボックスを抱えながら、綱吉はぽかんと口を開けた。
2メートルはあるだろう、頑丈な鉄の門を見上げる。
ついでにその横を見ると、黒服のいかつい男が2人、仁王立ちして辺りに視線を巡らせていた。
その男たちは、綱吉を見つけると、インカムでどこかへ連絡をし、それから、ゆっくり綱吉の方へ歩いてきた。
「んな……」
学校って、テレビで見ると、なんというか、もっとこう、開けたイメージだったけど、実際は違うらしい。
あぁそうか、最近ニュースで、学校に不審者が侵入して暴れた、なんて言ってたもんな。
このくらいしないと、子供たちの安全は保証されないんだ、きっと。
そんな事を考える綱吉に、突っ込んでくれる人間は残念ながらいない。
ガタガタ震える綱吉の前に立ち塞がる、熊のような男たちは、綱吉を値踏みするような目で眺めると、ゆっくり口を開いた。
「ここは、関係者以外立ち入り禁止です。何か用ですか」
「いや、あの……」
「アポは取ってありますか」
「……とって、ないです」
どうしよう…。
期待と思いつきでここまでやってきたけど、これは、とても中に入れそうもない。
落胆しながら、綱吉は、せめてランチボックスだけでも、男たちにお願いしてみることにした。
「あの、すいません……、ここに、スクアーロ、っていう生徒がいると思うので、彼に、このお弁当を渡してくれませんか?」
おずおずとランチボックスを差し出す。
「っ、あなたは……スクアーロ様と面識が…?」
……様?
「はぁ……まぁ」
男たち2人は、綱吉とランチボックスを交互に見、それから顔を見合わせた。
「あの……?」
「あ、いえ、念のため、中身を確認しても?」
「はぁ、どうぞ」
ボックスを渡すと、男たちは中を除きこみ、そろって首をかしげた。
まぁ、中身は、これでもかという程肉づくめなのだ。
ザンザスの食欲を目の当たりにした今となっては普通だが、冷静に考えてみれば、おかしな献立だろう。
「あー…、えっと、それ、あっ、2人分!2人分なんで!」
一応、スクアーロが変な誤解をされないようにと思って弁解したのだけど、男たちは違うところに引っ掛かったらしい。
「2人分、というと、もう1人は、もしかして……」
(長くなったので、一旦切ります)