パラレル

□またね
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またね




「綱吉〜! パパが迎えに来たぞ〜! 」

 それは、ザンザスが綱吉と出会ってから一週間程経ったある日のことだった。

 満面の笑みで綱吉に腕を広げる男を見て、ザンザスはピシリと固まった。

―――パパ……?
パパと言ったのかこの男は。

「あ、お父さん! 」

 そんなザンザスに気付かず、素直に広げられた腕へ走っていく綱吉の背中に、ザンザスは置いてけぼりを食らった子供のような気持ちになる。

「ツナ……ヨシ……? 」
「あぁザンザス、ちゃんと綱吉君の面倒を見ていたようだね」

 突然後ろから肩に手を乗せられて振り向くと、なにやら愉快そうに笑う義父の姿があった。

「……っ! てめ、このカスじじぃ! これはどういうことだ! 」

 思わず掴みかかったザンザスを軽く受け流すと、九代目は余裕の笑みを浮かべた。

「どういうことも何も、見たままだよ。
綱吉君は、家光の一人息子だ」
「……なっ」


―――似てねぇ……


 驚きを隠せないザンザスの背中を、九代目がポンポンと叩く。

「しかしお前に、まさか本当にきちんと子供の世話が務まるとはね……」

 「私は感激したよ」と言ってわざとらしく涙を拭う父の姿に、ザンザスはげんなりする。

「……いやぁザンザス悪かったなぁ。ほれ、綱吉からもお礼言え、ありがとう〜、って」

 父親に促されて、綱吉はありがとうと頭を下げたが、実際、何に対してお礼を言っているのかは理解していないようだった。

「……別にいい」

 頭を撫でてやりたいと思ったが、今は手の届く位置にいない。
 思わずザンザスは目を伏せた。



「……さて、じゃあ九代目、私はそろそろ日本へ帰ります。……綱吉を早く母親に会わせてやりたいですし」

 綱吉を見下ろす家光の顔は、今までに見たこともない程優しげで、これが父親というものなのかとザンザスに思わせた。


「あぁ、また後でな。……綱吉君も、またいつでもおいで」

 後半は、身長の低い綱吉に合わせて屈みながら言う。

「ほら、ザンザスも早く挨拶しなさい」
「ぁ……」

 急に話を振られて、ザンザスはハッと我にかえった。

 何と言っていいかわからず、なんとなく綱吉に目を向けると、綱吉も不安そうにコチラを見ていて、なんだか胸が痛んだ。
 一旦開きかけた口を、思いとどまって閉じる。


「……ザンザス、また、会える? 」

 そんなザンザスに焦れて口を開いたのは、綱吉だった。
 トタトタ、何度見ても危なっかしい走り方でザンザスの元へやってくると、綱吉は、キュウとザンザスのシャツの袖を掴んだ。

「ザンザス―――」
「わからねえ……」

 後から思えば、嘘でも会えると言っておくべきだったと思う。
 けれどその時の自分は、そんな判断も出来ないほどに混乱していた。

「……今度は私たちが綱吉君に会いに行くよ。だから大丈夫、すぐ会えるよ」

 そんなザンザスの言葉にフォローを入れたのは、九代目だった。

 綱吉が目に見えて安心するのを、ザンザスは複雑な気持ちで見守る。

「……ザンザス、」
「……、何だ」
「また、絶対、いっしょに遊ぼうね」

 無理矢理作ったのだろう笑顔を向けられる。
 こんな年端もいかない餓鬼に気を使わせてしまったのかと、ザンザスは内心苦笑した。


「……あぁ、わかった」

 頷くと、「じゃあ指切りしよう」、と言われて小指を出された。
 綱吉の顔がいつになく真剣だったので、ザンザスは少々面食らう。

「ザンザス、」
「……あぁ」

 かがんで絡ませた小指は細く、頼りなかった。

 綱吉が、指切りのメロディを口ずさむ。
 所々音が外れていたけれど、なんだかそれも綱吉らしくて心が温かくなった。

 思えば、綱吉が来てから、ザンザスはいつもこんな気持ちでいることが出来た。
 綱吉と一緒にいると、心穏やかでいられた。
 この気持ちを何と言っていいのか、ザンザスにはまだわからない。

 けれど、向けられた笑顔を守ってやりたいという思いだけは確かなものだった。

「ザンザス、またね」
「あぁ、」



END
 そうしてちょっとのお別れ


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ザンザスと小さな綱吉のお話は一応これで完結です。
できればこの後大きくなった綱吉とザンザスの話も書きたいなぁとかぐたぐだ考えてだけいます。

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