パラレル

□恋に恋する男
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恋に恋する男




 運命の出会いは、きっとある。
 ザンザスは、ずっとそう信じて生きてきた。

 幼馴染みであるスクアーロには思いきり引かれたが、ザンザスはマジである。

 毎日、そこら辺にハンカチを落とす人がいないかと気を配っているし、眼鏡を落として困っている美少女がいないかと目を光らせている。

 だが、このご時世、まずハンカチを持ち歩くような女の子は稀であるし、眼鏡だって、落として分からなくなる程の近眼の人など、中々いない。

 更に言うなら、ザンザスに声を掛けられて逃げ出さない程の勇気を持ち合わせた女の子など、ほぼ皆無に等しかった。


「……運命の出会いがねぇ」

 ポツリと呟いたザンザスの隣でペットボトルの水を煽っていたスクアーロは、丁度口に含んでいた分を、すべて吹き出してしまった。

「……汚ねぇ」
「ゲホッ、ガハッ、ハ、ゔぉ゙おい、てめぇがまたおかしな事言い出すからだろうがぁっ! 」
「あ゙? 」
「高校生にもなって、まだ運命の出会いとやらを信じてんのかぁ? 」

 口を手の甲で拭いながら呆れた視線を寄越してくるスクアーロの頭を、ザンザスは無言で殴った。

「……俺の運命の相手を馬鹿にすんな、かっ消すぞ、カス」
「ゔぉ゙おいっ! 俺は相手を馬鹿にしたんじゃなくて、てめぇのその似合わなすぎる思想を馬鹿にしたん……」

ゴン。

 教室の隅、掃除用ロッカーの前でスクアーロが気絶している図は、もはやこのクラスでは、日常風景となっている。

「……どこにいるんだ、俺の運命の恋人は」

 頬杖をついて窓から空を見上げながら、ザンザスはふぅと息をついた。

 澄んだ青空に、一筋の飛行機雲が映えていた。



to be continued...
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