パラレル
□恋に恋する男
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少女漫画的出逢い
大学に落ちた。
綱吉にとって、それはとてもショックな事ではあったけれど、別段、ビックリするような事でもなかった。
あぁ、やっぱりね、と心の中で呟いた程だ。
自分の実力から見て、随分レベルの高い学校をチョイスしてしまったと、自覚している。
それでも、どうしてもそこに行きたいと思ったのは、是非とも講義を受けてみたい教授がいたからだ。
幸い、綱吉は一人っ子であり、親も、この後どうするかは、綱吉自身が決めて良いと言ってくれた。
憧れの大学を一回の挫折ごときで諦めきれなかった綱吉は、来年、もう一度チャレンジすることに決めた。
そんなわけで、今年の春から、綱吉はめでたく(?)浪人生デビューを果たしたわけなのである。
「……えぇっと、ここであの戦争が起きて、こっちが勝ったから、この領土を……」
予備校からの帰り道。
綱吉は夕焼けを頬に受けながら、参考書を読み読み、フラフラ帰路についていた。
一日で詰め込まれる量は、ハンパじゃない。
綱吉の頭は、このところパンク寸前だ。
「えー……っと、……あれ? これ、なんだっけ」
綱吉には、集中してしまうと、周りが見えなくなってしまう癖があった。
そのせいでいつも、帰り道では電信柱にぶつかったり、赤信号なのに道路に踏み込んで死にかけたりしている。
今日も例外ではなく、忘れた事を思い出す為に必死で記憶をたどっていた綱吉は、完全に前方不注意だった。
「……あっ! そうか、わかった、思い出した! そっか、これがそう……デッ!? 」
いきなり、後ろからパーカーのフードを引っ張られた。
「ぐぇっ! 」
そのまま後ろに倒れ込むと、たくましい腕が回ってきて、しっかりと綱吉の身体を支えた。
「何するんだよ」、と喚きかけた綱吉の口は、目の前を通りすぎて行った大型トラックを見て、「あ」の形に固まる。
「前くらい見て歩け」
後ろから聞こえてきた声は、呆れているようにも、怒っているようにも聞こえた。
多分、どちらも間違いじゃない。
「……スミ、マセン」
それだけ言うのが、やっとだった。
身体がすくんで動かない。
いつまでたっても動こうとしない綱吉を不審に思ったのだろう、綱吉の命の恩人は、後ろからヒョイと綱吉の顔を覗きこんできた。
「おい、どこか怪我でもし……」
が、綱吉と目が合った途端、今度は彼の方がピシリと固まってしまう。
命の恩人は、なかなかの男前だった。
けれど、なんというか、とても堅気とは思えないような風貌と雰囲気を持つ男だった。
そのせいか、結構年をとって見えたのだけれど、よくよく見れば、彼の身に付けているものは此処からそう遠くない私立高校の制服であり、彼が綱吉より年下である事が伺えた。
「あ、あの……ありがとうございます。……その、どうかしました? 」
下から覗き込むと、彼の顔が、無表情のままにボッと赤くなった。
何事だろうと綱吉は首をひねる。
「あの……」
「――だ……」
急に、彼がポツリと何かを呟いた。
が、ボリュームが小さすぎて聞こえない。
「え……、ごめん、何て言…… 」
「運命だ……」
「……は? 」
「運命だ」
気付いた時には綱吉の目の前は暗くなっていて、唇には何か暖かいものが押し付けられていた。
キスされている、ということに気付くまで、随分時間が掛かった。
人通りの少ない場所で良かったと思えるようになったのは暫く経ってからで、その時の綱吉には、とりあえず相手を殴って逃げ出す事しか考えられなかった。
to be continued...