パラレル

□兄弟Y
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保健室にて



 目を開けて一番最初に見えたのは、弟の顔のドアップだった。
 思わず眠気も覚める。

「…………。何やってんの、お前」
「……チッ」

 ザンザスが身体を持ち上げる。
 視界が広がって、ここどこだ、という質問はしなくて済んだ。

 真っ白だけれど、どこか使い古された感のあるシーツと掛け布団。
 薬品がずらりと並んだ棚。
 壁には、内蔵が妙にリアルに描かれたポスターが画ビョウで留めてあった。

 ボールが飛んできたのは覚えている。
 どうやら保健室に運ばれたらしい。

「……今舌打ちしなかったか、お前」
「さっきチャイムが鳴った。帰るぞ」

 会話のキャッチボールが成り立たない。

 溜め息をついて身体を起こすと、頭がジンジンと痛んだ。
 我慢出来ない程ではないけれど、思わず顔をしかめるくらいの痛みだった。

 頭に手を当てると、湿布が貼ってあった。
 けれど、多分寝相が悪かったせいだろう、半分くらい剥がれかけていた。

「吹っ飛んでゴールポストにぶつかったんだ。このカス」

 鞄が飛んでくる。
 中身が入っていたから、ザンザスがわざわざ準備をして持って来てくれたらしいとわかった。

「さんきゅ。……あぁ、どうりで顔より頭のが痛いわけだ」
「それ以上馬鹿になってどうすんだ」
「ほっとけ」


 ゆっくり起き上がって伸びをする。
 保健室独特の薬品の匂いが鼻についた。

「先生は? 」
「さっき出ていった」
「……あぁそう」

 まぁきっと、ザンザスと一緒に密室にいることに耐えられなくなったんだろうなと思った。

「? 何? 」

 気付くと、ザンザスがベッドのすぐ傍に立っていた。
 スッと手が伸ばされて、頭を撫でられる。

「ザンザス? 」
「誰だ」
「ザンザス……」
「テメェを傷つけたのは誰だ」
「あっちも悪気があったわけじゃないよ」
「許さねぇ」
「ザンザス」

 ザンザスの目に本気の色が垣間見えて、綱吉は焦った。
 こういう時のザンザスが一番危険だということを、綱吉は知っているからだ。

「なぁ、頼むから、復讐なんてすんなよ」
「…………」

 ザンザスは黙っている。

「ザンザス」

 名前を呼ぶと、グイと手を引かれた。
 倒れ込むようにザンザスの胸に抱きとめられる。

「わっ、ちょ、ザンザスッ! 」

 離れようともがくと、包み込むようにギュウと抱き締められた。
 心配してくれたんだなと思うと、ちょっと嬉しくなる。

「テメェは、俺のだ。
俺のものが傷つけられたんだ。
復讐する権利がある」
「誰がお前のだ」

 笑い混じりの溜め息をついて、ザンザスのでかい身体を抱き締めてやる。
 すると、更にキツく抱き込まれて、息が詰まった。 慕ってくれるのは嬉しいが、力加減を考えて欲しい。

「ぅ……苦し……」

 背中を叩いてみたが、ちっとも緩めてくれない。

「おいこら、ザンザス」
「……わかった」
「……は? 」
「半殺しで止める」

 あんまり真面目に言うものだから、綱吉も暫く返事が出来なかった。

「っ、だ、駄目に決まってるだろ!! 」

 思い切り叫んだら頭に響いて、綱吉は「くそぅ」と毒づいた。

 とりあえず必ず止めようと決心して、綱吉は大人しくザンザスにもたれた。



END

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