パラレル

□かみさま
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吊り上がった目。
深く刻み込まれた眉間の皺。
頬に走る大きな傷痕。

それに加えて横柄な態度。
初対面から、何故か彼は機嫌が悪かった。

「手間かけさせやがって……このドカスが…!! 」

ザッパン、荒波が、絶壁を打ち付ける音がする。
 額に、冷たいものが押し付けられた。
寒さと恐怖にガチガチ震えながら見上げると、それは大きな黒い拳銃だった。
カチリ。
リボルバーが回る。
そこでようやく、綱吉の意識も覚醒した。

「ひぃっ!! こここ、殺さないでっ!!」

叫んで、両手を挙げる。
風が吹いて、くしゃみが出た。
彼が、嫌悪感をそのまま顔に表す。


「……たった今自殺に失敗した奴のセリフか」

…なるほど、その通りだ。
ぱちくりと瞬きをする綱吉を、彼が呆れた目で見下ろした。
ザッパン、また波が打ち付けて、引いていく。
あそこに飛び込んだなんて、我ながら信じられない。

「…これで通算四回目の失敗だ。いい加減にしろよテメェ…」

あぁそんなになったっけ。自分じゃ数えてなかった。
自分で自分の身体をかき抱き、綱吉はずずっと鼻をすすった。
全身びしょ濡れなのだ。
溺死はしなくとも、凍死するかもしれない。
舌打ちが聞こえて、額から拳銃が離された。

「第一、死ぬつもりで飛び込んどいて、なんで上がってくる」
「…いやその、予想外に苦しくて思わず」

あはは、と笑った綱吉を、彼が鬼のような形相で見下ろしてきた。

かなり、恐い。
絶壁から身を投げた時より、恐い。

「テメェ…本気で死ぬ気あんのか…」
「あああ、ありますあります!!! 」
「だったら死ぬ気で死ねこのドカスがっ…!! 」

それ日本語的におかしいですよ、とは、さすがに突っ込めなかった。

「ひぃいっ…!!ごめんなさいっ!! …と、というかあなた誰ですか!!」

 当たり前の質問を、綱吉は今更投げ掛けた。

 いままでの彼の言動から言って、彼は、綱吉を知っているらしい。
けれど、どんなに自分の記憶を探っても、その中に彼の姿はないのだ。
 忘れた、という可能性もなくはないが、こんな悪人面、一度見たら絶対忘れられない、むしろ悪夢に出てきそうだ、と綱吉は思う。

「…あ゙? 」

 彼がもう一度拳銃を構えた。


「すみませんすみませんもう何も聞きませんごめんなさい」
「ザンザスだ」
「答えたーーー!!? 」
「テメェ担当の死神だ」
「しかもとち狂ったこと言ってるーーー!! 」

バキュン、ドコン、ガラガラザプン。
銃弾が、綱吉の右耳を掠めて背後の岩壁を崩した。

「うるせぇ黙れ」


…うん、彼は死神なんだ、そうに違いないよ。
綱吉は無理やり自分を信じ込ませた。

「テメェがくたばらねぇと俺の仕事が終わらねぇ」


 なるほど機嫌が悪いのは、仕事がはかどらないイライラからきたものらしい。
そんな勝手な。
言ってやりたかったが、銃口がまだこちらを向いたままだ。


「……だ、だから早く死ねと? 」

控えめに綱吉が口を開くと、彼の顔に、出会ってから初めて笑顔が浮かんだ。
それはそれは、邪悪な笑みだった。

「……わかってんじゃねぇか」


 死にたい理由に、早く彼とおさらばしたいから、が新しく追加された。



END


あぁあぁ……
ベイビーパニックの続き書こうと思ってたのに…
煮詰まってまた変なの書いちゃった…orz
綱吉を死神にしようかなとか思っていた筈が何故かいつの間にか立場が逆転していたという…

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