パラレル

□ベイビーパニックX
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 空気が重い。
 もちろん、計りに乗せれるような重さのことを言っているのじゃない。

 雰囲気だ。
 父さんはずっと黙ったまま、椅子に座って向こうを向いている。
 自分の唾を飲む音が、やけに大きく聞こえた。

「……あ、あのさ」

 沈黙に耐え兼ね、先に口を開いたのは光邦だった。

「抜け出したこと、悪いとは思ってるよ、…でもさ、俺だってもう12になるんだし、いい加減、一人で出歩くのを許してくれたっていいだろ? 」

 なんだか、段々と拗ねた口調になってしまった。
 自分で自分の子供っぽさを強調してしまった様な気がして、光邦は口をつぐむ。

父さんにはしっかりしたところを見せたいのに。
いつも空回りばかりだ。


 光邦をチラリと見やって、父さんが、ふぅと一つ息をついてから立ち上がった。
 コツコツと近寄ってくると、ス、と手をあげる。

 まさか叩かれるんじゃ、と身を固くした光邦に降りてきたのはしかし、優しい手のひらだった。

「お前は本当に、日に日に母さんに似てくるな……」

 光邦の髪を撫でながら、そう言う。
 言いたいことがわからなくて、光邦は上目遣いに父さんを見上げた。

「……今それ、関係あるのかよ」

 確かに光邦の見た目は、母親の綱吉によく似ている。
 小さい頃から周りに何度もそう言われてきたし、光邦自身もそう思う。
 父親であるザンザスから貰った特徴と言えば、真っ赤な目と、ぽってりした厚めの唇くらいだ。
 どうせなら父親の特徴を多く貰いたかったな、と光邦は思う。

 父さんはかっこいい。
 憧れによる贔屓目もあるのかもしれないけれど。

 スラッと高い身長と、彫りの深い顔立ち。
泣く子も黙る程の恐面は、男らしくて羨ましい。


 対して母親の綱吉は、男とは思えない程可愛らしい容姿をしている。
 小動物を思わせる大きな薄茶の目に、華奢な体躯。
マフィアとは思えない、穏和な性格と優しい眼差し。

 男として、似てきたと言われても、正直、微妙だ。

「……見た目の話じゃない」

 父さんが、薄く笑いながら言う。


「? …じゃあ何の話だよ」

 父さんを見上げる。

「…綱吉も、今のお前の様に、昔はよくここから脱け出していた」

 ニヤリと笑いながら、父さんが言う。

 理解するのに、少し時間がかかった。
 まず、母さんにそんな度胸があるとは思えなかった。
皆が心配するから、とかなんとか言いそうだ。


「……まじで? 」
「あぁ。
……知ってると思うが、綱吉は12歳になるまで、自分がボンゴレの血をひいていることすら知らなかった」

 父さんの言葉に、光邦は頷いた。
 有名な話だ。


「だからよく、ボスを辞めたいと言ってはここから逃亡した」
「え… 」

 それは初耳だ。

「守護者が動けばボスの不在がバレやすいからな。ヴァ゙リアーに指令がきた」
「……母さんを捜せ、って? 」

「そうだ」

 父さんが、ブハッと吹き出す。
 彼がこんなに笑うのは珍しいのだと、父さんの仕事仲間に聞いた。
 光邦にはとても信じられないけれど。


「ありえねー…」
「全くだ」

 言いながらも、父さんは楽しそうだ。
けれど、ふいに真面目な顔になると、光邦の目を見て口を開いた。


「……だから綱吉は、一人でここらを出歩く危険性をよくわかってる」
「……え」
「綱吉の場合、見た目があんなだからな。余計に絡まれやすい」

 確かに、と思う。

「見つけると、大抵何かに追われたり怪我したり金をせびられたりしてやがった」

母さんだものな。

「…………」
「お前にそんな思いをさせたくないんだろう」
「…………」

 俺は大丈夫だよ、と言いたかったのがバレたのか、父さんが苦笑した。

「お前は特に、ボンゴレの第一後継者候補だからな、そういう奴等を警戒してもいるんだろ」
「ぅ…………」

 確かに、心当たりがある。
明らかにチンピラとは思えない武装をした、黒服の男たち。
なんの前触れもなく、飛んできた銃弾。
何がなんだか理解出来なかった。


 その時助かったのは、両親が、信頼の置ける護衛を光邦に付けてくれていたからだ。


「……」

 目に見えて落胆した光邦を不憫に思ったのか、父さんが、わしゃわしゃと光邦の頭をかき回した。

「…せっかくだ、このまま俺と出掛けるか? 」
「……え」

 沈んでいた気持ちが、その一言で徐々に浮上し始める。

「ほ、ほんと…? 」
「あぁ、仕事はスクアーロに任せりゃ良い」

 後半は、あえて気にしないことにした。

めちゃくちゃ嬉しい。
 仕事が忙しい父さんは、なかなか一緒に出掛けられない。
 母さんだって勿論忙しいのだけれど、休憩休憩、と言いながらしょっちゅう光邦のところへやってくる。
 だから、母さんと出掛けることはあっても、父さんと出掛けるのは、すごく久しぶりなのだ。


「どこでも、お前の行きたい所へ連れてってやる」

 低い声で囁かれ、思わずきゅんとしてしまった。  父さんに惚れた母さんの気持ちがわかる。
 光邦がポーッとしているて、父さんが、ふいに顔をドアの方へ向けた。
 ふ、と微笑む。

 この顔を、光邦は知っている。
父さんがこんなに優しげな眼差しを向ける人物は、光邦の知る限り、一人しかいない。

…それはもう、光邦が嫉妬してしまう程の。


 父さんの視線を追って、光邦もドアを見つめた。

気配は、感じられない。
けれど、確信があった。


 父さんが、ゆっくり口を開く。

「……いつまでそうしてるつもりだ、綱吉? 」


 ややあって、ドアがゆっくり引かれる。
 ドアの向こうには、照れくさそうに笑う母さんの姿があった。

「あはは…、えっと……俺も一緒に行っていい? 」


あぁまたこの人は。



「お前は…」「母さんは…」



「「仕事」」

「だろ」「でしょ」


父さんと目があった。
二人で笑う。


「……だよね」


母さん一人だけが、ガクリと肩を落とした。



to be continued...


や……やっと続きをアップできた……orz
ザン様なんだかんだで親バカの巻。
でも愛の大きさでいくと
綱吉>光邦
です。
ザン様綱吉大好きですから(>∪<//)+゚

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