パラレル
□兄弟X
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喧嘩の後
『触らぬ神に祟りなし』
先人はうまいこと言ったもんだと、スクアーロは一人心地た。
今日はザンザスの機嫌がすこぶる悪い。
机の下の爪先が、腹立だしそうに床を踏みつけている。
可哀想に、まだ新任の英語教師は、黒板に向かいながら手が震えていた。
イライラの理由は、彼の口の右端に残る、殴られた痕を見れば大体の予想がついた。
中学の時ならいざ知らず、今現在、高校生になってしまったこの怪物に一発食らわせることが出来るような人物を、スクアーロは一人しか知らない。
ふぅと息を吐いて窓からグランドを見下ろすと、ちょうど今思い描いていた人物のクラスが、外でサッカーをしていた。
―――ヤル気ねぇなぁ、あいつ……
綱吉は、ゴールの前でただぼぅっと突っ立っていた。
あの様子では、もし敵に攻められたとしても、ゴールを守るなど到底無理だろう。
まぁ、もし綱吉が本気で止めにかかったとしても、失敗するのは目に見えているけれど。
「……あ゙」
言っている傍から、男子生徒の蹴ったボールが、綱吉の顔面にクリーンヒット。
……あれはちょっと、ヤバイんじゃあないだろうか。
ゆっくり傾くその身体にスクアーロが思わず窓に身を乗り出すのと、隣の席から椅子をひく、ガタッという音が聞こえたのは、ほとんど同時だった。
「……な」
「早退する」
決して大きな声では無かったけれど、ザンザスの声は、静まり返っていた教室によく響いた。
教師が恐怖に震えながらガクガクと頷くのを見ると、ザンザスはそのまま鞄だけをひっ掴んで教室を出ていった。
後に残ったのは、事態の呑み込めない数十人と、さっきまで確かに怒りの矛先を向けていた相手を、一片の躊躇いも無く助けに行くザンザスの不可思議さに呆れるスクアーロだけだった。
―――結局アイツは、綱吉以上のブラコンなんだよなぁ……
窓を見下ろすと、ちょうど綱吉がザンザスに担がれていくところだった。
END
ザンザス、結局お兄ちゃん子の巻。
スクアーロ視点なのは、このシリーズの中で一番まともで書きやすい人からです。