ささげもの
□20000HITリク
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庭にて
スルスルと、時に力強く、時に繊細な線が引かれていくのを、綱吉は隣で食い入るように見つめていた。
しかし、絵筆を握る男にそれを気にする様子はまるでない。
何時間も互いに無言のまま、日が暮れる頃になってようやくその絵は完成した。
一本の、桜の木を描いた絵だった。
綱吉の、一番気に入っている木だった。
男がそれを知っていたかは知らないが、だからといって今更それを確認する気にもならなかった。
木の一番低い枝には、白い着物を纏った少年の姿が描かれていた。
「なぁ、それ、俺…? 」
耐えかねて尋ねた綱吉を一瞥して、男が意地の悪そうな顔で笑った。
「さぁな」
と同時に、一陣の風が吹いた。
男が思わず閉じてしまった目を開けると、そこに少年の姿はなく、今まで手元にあった筈の絵も消えていた。
どこからか聞こえる無邪気な笑い声を聞きながら、男は煙管を吹かし始めた。