ささげもの

□20000HITリク
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見守る木




 初めは、追い出してやろうと思った。

 ちょっと悪戯してやれば、今までの住民がそうだったように、すぐに怯えて逃げ出していくだろうと思っていた。

 けれど、予想に反して、男はなかなかにしぶとい奴だった。

 痺れを切らして綱吉本人が男の目の前に現れてやっても、「歳はいくつだ」、と、すっとんきょうな質問を投げ掛けられるだけだった。

『わ、忘れたよ!! 』


 今思うと、あそこで返事なんかしなければ良かったのだ。

 その時を境に、調子に乗った男は自分から綱吉に話し掛けるようになった。
 やれ名前はなんだ、やれいつからここにいるんだ、終いには、一緒に団子を食わないかと誘われた。

 変わった人間だな、と、いつもの様に、後ろから庭に立つ男の背中を眺めていると、男が急に口を開いた。

「おい、綱吉、いるんだろ」
「……なんだよ」

 ふわりと急に現れた綱吉を見ても、男はもうちっとも驚かない。

「この桜はいつからここにあるんだ」

 そう言って男が見上げたのは、大きな大きな桜の木だった。
 今はまだ蕾すら見当たらないけれど、春になれば、それはそれは綺麗な花を沢山咲かす。
 それを見るのが、綱吉の毎年の密かな楽しみだった。

「知らない。
俺がここに来たときにはもうそこにいたよ」

 そう言うと、男は少し驚いたようだった。

「……お前より古株がこの家にいたのか」
「うん、この木だけはね。
まぁ、そん時は俺と同じくらいの大きさしかなかったけど」
「ふん……」
「それがどうかしたの」
「いや、何でもねぇ」

 そう言って男はまた桜の木を、眩しいものでも見るように、目を細めて見上げた。
 それにならって綱吉も木を見上げながら、男に気付かれないように、そっと彼との距離を縮めた。





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