ささげもの

□22222HITリク
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 暖かい陽気に包まれて、綱吉は幸せだった。
 何もない休日。
 こんな日は、家でゴロゴロ寝ているに限る。

 少しだけ窓を開けて、そよそよと頬を撫でる風を感じながら目を閉じる。

 あぁ、このまま時が止まればいいのにな、と、綱吉がしみじみ感じていると、ふいに伸びてきた手が、その窓を、綱吉の断りもなくピシャリと閉じてしまった。
 続いて、地を這うような低い声が聞こえてくる。

「……テメェ綱吉…ふざけんじゃねぇぞ…」

 見ると、はっきりくっきり怒りを顕にしたザンザスが、箱ティッシュ片手に立っていた。


「花粉が……ぶはーっくしょいっ!!! 」

 盛大なくしゃみをすると、持っていたティッシュでずびずびと鼻をかみだす。

「入って、くんだろが」

 可哀想に、ザンザスの目は、真っ赤に充血して潤んでいる。
 鼻のかみすぎで鼻の下もヒリヒリと痛そうだし、なにやら頭痛もするらしい。
 そのせいで、最近のザンザスの機嫌はすこぶる悪い。
 ガタイの良さと花粉症のかかりやすさは、全く関係無いらしい。

 不憫なザンザスの姿に思わず吹き出しかけて、綱吉は慌てて平静を装った。

「ぶっ…、た、大変だね」

 ギロリと睨まれる。
 目が血走っていて、いつもの数倍怖い。

 けれど、面白いものは面白いのだ。
 あの、何様俺様ザンザス様が、こんな目に見えない小さな敵にぼろぼろにやられているなんて。

「ぶふっ…」
「この…カスが…テメェも花粉症になっちまえ…」

 ユラリと綱吉に覆い被さると、そのまま、さっきよりさらに大きなくしゃみを浴びせてきた。

「ぶはーーーっくしょいっ!!! 」

 顔に、なんとなく生理的に嫌な水滴が飛ぶ。

「ぎゃあぁっ!! ツバ!! ツバ!!
ていうか風邪じゃあるまいし、そんなんでうつるわけないだろ!!! 」
「うるせぇ黙れテメェに何がわかる!! 」


 いやわかんないけど。

 そのセリフを、綱吉はなんとか飲み込んだ。
 今のザンザスに、へたなことは言わない方が良さそうだ。

「わ、わかった、窓は開けないからさ、な、ごめんって、ぶふっ…」

 綱吉が喋っている間にも、眉を寄せながら、いじらしく花粉の攻撃に耐えているらしいザンザスに、堪えきれなかった笑いが盛れてしまった。
案の定、不穏な空気が流れ出す。

「……かっ消す」

 ぼそりと呟くと、ザンザスはすばやく綱吉の首に腕を回して、ギリギリと締め上げ始めた。

「ぎゃあぁっ!! ギブ!! ギブ!! 」

 ザンザスの腕を叩く。
 がしかし、ザンザスは本気で頭にきているらしく、腕の力を全く抜こうとしない。

「うるせぇこのドカ……ぶはっくしょいっ!! 」
「ぎゃあっ!! だから、ツバ飛ばすのやめろって!! 」
「うるせ……っ、は、は、」
「ちょ、ちょ、ちょっと待った…!! 俺離してからにし…」
「ぶはーっくしょいっ!! 」
「んなーーーっ!!! 」


 結局、こんなことを少なくとも六回程繰り返してようやく、ザンザスのくしゃみは収まった。

 けれど、ザンザスは相変わらず綱吉を解放してくれないし。
 後ろから抱えられたまま、二人とも違う理由でバテてしまったので、何となく一緒に床に転がっていた。

 窓から見える空は青い。
 ザンザスからは嗅ぎ慣れた洗剤の匂いがして、何だか安心した。
 瞼が重くなってくる。


 急に、ザンザスがぎゅうと綱吉を抱き締めてきた。 綱吉は視線を上げる。
 ザンザスの表情は窺えない。

「…、ザンザス? 」
「疲れた、眠ぃ」

 短く言うと、綱吉を引き寄せて、その肩口に顔をうずめる。

 こんなに素直に甘えてくるザンザスが珍しくて、綱吉は目を見開いた。
 胸の下で交差された腕が、しっかりと綱吉の身体を抱き止める。
 その腕の太さを実感した途端、何だか急に、顔が熱くなってきた。
 首筋をかすめるザンザスの吐息が、やけに熱く感じられた。
 鼓動が速くなる。

 耐えきれなくなって、綱吉は口を開いた。


「ザ、ザンザ…」
「は、は、…ぶはっくしょいっ!! 」
「っ、ぎゃあぁっ!! モロはやめろって!! 」


 叫びながら、やっぱりさっきのトキメキは勘違いだったんだと思いながら、それでも何だか胸の奥にくすぶるものの存在が怖くて、綱吉は今度こそ、ザンザスをひっぺがした。

 顔の熱は、しばらく取れなかった。



END

辻彦様、大変お待たせ致しました;;
兄弟で春モノネタ、ということだったのですが…
スミマセン、なんか、春、って言われると花粉症しか出てこなくて…;;
ワタクシ花粉症じゃないんですけれども…
こ、こんなんで良かったら、どうぞ受け取ってやってくださいませ(>Д<`;)
それでは最後に、リクエストして下さって、本当にありがとうございました!!!

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