ささげもの

□51615HITキリリク
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不良と、とことんドジな俺



さっきまで賑わっていた食堂が、一瞬で凍りつくのがわかった。
全員の目が、綱吉と、その側で椅子に座っている、彼へ向けられていた。


あぁ俺の人生終わった、と綱吉は思った。
さっきまで手に持っていた紙コップが、コロコロと転がっていく。

そこに入っていたジュースを、綱吉は一口たりとも飲んでいなかった。
何故かというと、飲む前にすべてをこぼしてしまったからだ。

自分が何もない所で転ぶのは珍しくない。
けれどだからといって、なにも、この場所、このタイミングで転ばなくても良かったよなと思う。

あれだ。
厄日なんだ。

今朝布団の中でした予感は、やっぱり間違いじゃなかったんだ。
学校なんてサボれば良かった。

「っす、す、す、すみませんでした…っ!!」


綱吉は土下座した。
周りの視線なんて気にしていられない。
命の方が大事だ。

彼の前髪からは、絶えずジュースが滴っている。
それは綱吉が飲むはずのものだった。

泣きたい。

チラと彼を伺い見る。
整った顔に、ジュースが線を引いている。

死にたい。
いやむしろ、殺される。

世間で流れている、彼に関するあらゆる噂が頭に浮かんだ。
主に、喧嘩の話だ。
正直、良い噂は聞いたことがない。


恐くなって、綱吉はうつむいた。

ガタン。
彼が椅子をひくのがわかった。
ビクリと肩が震える。

殴られるか、蹴り飛ばされるか。
どちらにしても、無事ではいられないだろう。
強く目をつぶった。
身体が強張る。

しかし、いつまでたっても、予想していた衝撃がこない。

不安になって綱吉が顔をあげると、彼が、無表情のまま食堂から出ていこうとしているところだった。
滴るジュースを無造作に手で拭い、チッと舌打ちをしている。
綱吉に危害を加える様子はない。


綱吉は茫然とした。
助かった安心感よりも、混乱の方が先にたっている。

気付いた時には、立ち上がって、彼の後を追っていた。
何を考えたわけでもなかった。
元より、そんな余裕もない。
ただ、拭いてあげなきゃ、と、それだけが頭の中にあった。



to be continued...
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