ささげもの

□9000HITキリリク(ザンツナスク)
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 ヴァリアーの本部は広い。

 といっても、随分長いことここで過ごしているスクアーロには、あまりそういう感覚はない。
 ただ、この間新しく10代目ボスになった綱吉が、目を丸くしてそう言っていたので、広いらしい、という印象はあった。

 その廊下をブーツで歩くと、カツンカツンと音がよく響く。
 成る程、確かに少々広いのかもしれない。

 しばらく歩くと、突き当たりに重厚な扉が現れた。
 スクアーロにとっては行き慣れた、しかしあまり良い思い出の無い場所である。
 コンコンとノックをするが、返事はない。
 毎度のことなので、気にはならない。

「入るぞぉ」

 少しの警戒をしつつも、なるたけ平静を装いつつ扉を押す。
 以前いきなりグラスが飛んできた時は、あまりの事に、怒るとかの前に呆れてしまって物が言えなかった。

 ある程度まで扉を開けても何も起きないのを見てとって、スクアーロは内心ちょっとホッとした。
 改めて前に向き直り、自信を持って一歩目を踏み出す。

「ゔお゙ぉい、ボス! こないだの…にん……む……」

 二歩目が踏み出されることはなかった。

 あまりの事態に、空いた口が塞がらない。


「何しにきた、カス」
「お邪魔してます……」
「お前、何してるんだぁ……? 」

 申し合わせた訳でも無いのに、三人が口を開いたのは、ほぼ同時だった。

 ザンザスの舌打ちが聞こえて、その膝の上に、おそらく無理矢理座らせられているのだろう綱吉が、ヒィッと悲鳴をあげた。

 ザンザスは最近、この小さなボスがお気に入りらしい。
大した用もないのに呼び出しては、こうして、一方的なスキンシップをはかっている。
 今日も、どうせくだらない用事で無理矢理引っ張って来たのだろう。

 心底不憫だとは思うが、スクアーロに、ザンザスを止める力は無い。

 なるたけ綱吉を見ないようにしながら、スクアーロは報告書をザンザスに差し出した。

が。

「ゔぉ゙おいっ!? 」

差し出した手を見下ろす。
 スクアーロの右手首を掴む小さい手は、間違いなく綱吉のものだった。

 途端に、ザンザスからあり得ない程の殺気が溢れ出る。
 ついでに、スクアーロの背中には冷や汗が溢れ出る。

 軽く腕を振ってみたが、手は取れない。
さらに強く振ってみても、やっぱり取れない。
 綱吉は今、スクアーロの腕を、唯一の命綱か何かと勘違いしているらしい。

 ザンザスの視線が痛かった。

 この男が、いかに嫉妬深く、執念深い奴か、スクアーロは誰よりもよく知っている。

 「スクアーロ」と、綱吉が弱々しい声をあげた。

 続けて、助けて、と涙目で訴えられるが、むしろ助けて欲しいのはコチラの方だ。

 チラリとザンザスの手を見やれば、そこには、いつの間にか彼愛用の銃が握られていた。

「ゔぉ゙っ!? 」

 まさか、ここでぶっぱなすつもりなのだろうか。

 ザンザスの目は、真剣そのものだ。
 コイツならやりかねないと、スクアーロはゴクリと喉を鳴らした。

「カス鮫……」

 地を這うような声だった。
 ヤバイと思い、反対の手を使って綱吉の手をひっぺがそうとするが、逆に、その手までもを一緒に掴まれてしまった。
 ハタから見れば、仲良く手と手を取り合っている様に、見えなくもない。

 ザンザスの殺気がさらに鋭くなって、全身にチクチクと痛い。

「……その手を離せ、このドカス」
「いやいやよく見ろぉ! 掴んでるのはソッチのほ―――! 」

 びゅおん、と耳元で風を切る音がした。
少し遅れて、後ろからドカンと、壁の壊れた音が聞こえる。

 目の前には銃口。
焦げた匂いが部屋に充満する。

「……かっ消す」

 ザンザスが二発目のモーションに入るより早く、スクアーロはほぼ条件反射の様に行動を起こした。




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