SHORT U

□大嫌い2
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 綱吉を抱いて、一時は満たされたかに見えた心も、日を追うにつれ、また激しい渇きを覚えてきた。

それは、かえって以前より酷いのではないかと思える程だった。

思うままに物を壊し、女を抱き、人を殺しても、その渇きは潤せなかった。
涙を浮かべる綱吉の顔を思い出す度、熱いものと寒いものが同時に押し寄せるようだった。




その内、ザンザスは部屋から出なくなった。
一日中、酒をあおった。
綱吉の顔が消えるまで、いつまでも飲み続けた。
そうしているうちに徐々に時間感覚がなくなり、今が一体何月の何日なのか、朝なのか昼なのか、わからなくなった。
カーテンを牽いていたので、部屋は常に薄暗かった。
毎日、スクアーロが部屋のドアを叩くのが唯一、日付が変わったことを知らせる合図だった。


―――コンコン


酒の力によって夢の入り口をさ迷っていたザンザスは、断続的に続く控えめなノック音に、薄く目を開いた。


―――コンコン


今日はやけにしつこい。


―――コンコン


何だというのだ。


―――コンコン


段々イライラしてきた。
只でさえ、二日酔いで頭が割れるようなのだ。
今は何の音も聞きたくない。
側にあった空き瓶でも投げつけてやろうかと身を起こした瞬間、ドアの向こうから聞こえてきた声は、しかし、予想していたダミ声ではなかった。


「……ザンザス、いる? 」

頭にこびりついて離れなかった、声。
思わず動きを止める。

「スクアーロ、心配してたよ、食事だけでも受け取ってあげなよ」

目を見開く。

……何故。
コイツは平然と自分に話しかけられるのか。

この間のことは、コイツにとって、とるにたらない事だったというのか。

カッとなり、ザンザスは飛び起きた。
力任せにドアを開け、目を見開いている綱吉の腕を、強引に引っ張る。

「え、」

引きずるようなかたちで部屋に連れ込むと、そのままベッドに投げ入れ、自分はその身体に覆い被さった。
キシッと、スプリングの軋む音がした。


「ザン…んっ…! 」

驚く綱吉へ強引に口付け、唇をこじ開ける。
奥に縮こまっていた舌を捕まえて吸い上げると、綱吉の細い肩が、ヒクッと跳ねた。
上顎をなぞってやると、鼻にかかった声をあげる。
絡めてつついて吸い上げて、綱吉が動けなくなるまで、口腔内を蹂躙した。


「……っは、はぁっ、ザン、ザス、酒くさ…」

激しく胸を上下させながら、綱吉が切れ切れに言う。
イライラした。


「テメェわかってんのか」
「え」
「こないだ俺に何されたか忘れたのか」

首筋に触れながら言うと、綱吉の表情がわずかに強張った。
それを見て、ザンザスは少しだけ満足する。
もっと恐怖すればいい。


―――同情なんていらない
救いなんてもっての他だ。


 ゆっくり身体を起こす。
これで、怯えた綱吉はさっさと部屋を出ていくだろう。
自分はまた一人で、一日中酒をあおっていれば良い。

そう考えた途端、何故か感じた胸の苦しさには気付かないふりをして、ザンザスは綱吉に背を向けた。

早く出て行けばいい。
側にいたくない。

と、ふいに、背後で綱吉の動く気配を感じ、ザンザスは身構えた。

今度こそ自分に近寄らなくなるだろうなと思った。

 しかし、綱吉はその後なかなかベッドの上から動こうとせず、不審に思ったザンザスが振り返ると、いつの間にか、さっきまでの警戒した表情ではなく、酷く心配した顔でこちらを見つめる綱吉がいた。


無言でみつめあった。

ドクドクと鼓動が速くなり、冷や汗が浮き出た。


これだから、ザンザスは綱吉が嫌いなのだ。

恐くてたまらなくて、今だって小さな拳が震えているのがわかるのに、それを必死に押し殺して、ザンザスの心配をしている。
逃げればいいのに、我が身のことより、他人のことを優先する。
馬鹿だ、と思った。
どうしようもないくらい、馬鹿だ。

 気付いた時には、手を伸ばしていた。

救いなんていらない。

引き寄せ抱き締めた身体は細く脆くて、暖かかった。

救いなんていらない。

それでも今は、この、馬鹿がつく程お人好しで、どんな人間にも、救いなんていうまやかしを与えてしまう男の胸で、眠りたかった。


to be continued...?

や、やっとアップできた…
無駄に長い…
この調子で頑張って完結させるぞー!
おー……(力無く)

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