SHORT U
□伝わらない
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※「きず」と繋がってます
※軽い暴力表現有り
「ぐ、はっ! 」
ずしゃっと、床を顔ですべった。
殴られた右のこめかみ辺りが、じんじんと痛む。
なんとか起き上がろうと付いた手は、容赦なくブーツで踏まれた。
「ぁ……っ! っ、ザンザス、やめっ―――」
「ウルセェ黙れ。死にてぇのか」
グリッと踵を回されて、あまりの痛みに、綱吉は悲鳴をあげた。
「―――っ! なん、でっ……」
「ハッ、しらばっくれるつもりか」
「な、何のことだよ? 何言ってるのか全然わかんな―――」
台詞を言い終わる前に、綱吉の視界が大きくブレた。
蹴られたのだと理解したのは、二、三度転がった後だった。
腹が痛い。
「うっ! ぐっ、げほっ……! 」
胃液がせりあがってきて、綱吉は思わず両手で口を塞いだ。
苦しくて、目尻に涙が浮かぶ。
ふと影が差したので、薄く開いた目でそちらを見やれば、無表情のザンザスが綱吉を見下ろしていた。
「ザ、ン―――」
「……テメェは俺のもんだろ。
他の奴と抱き合ってんじゃねぇよ! 」
最後の"よ"の部分を掛け声に、また同じところを蹴られた。
「がっ……! 」
更に転がって、壁に背中を打ち付けてしまう。
溜まった涙が零れた。
「ぅ、っふ、げほっ……! 」
丸まって痛みに耐える。
顎を唾液が伝った。
すぐ傍で足音が聞こえたと思ったら、髪を掴まれて持ち上げられた。
頭皮の痛みに小さくうめく。
ザンザスの顔を見たいと思ったのに、涙で滲んだ視界では、ぼんやりとしか彼の姿を捉えられなかった。
「げほっ、……は、ザン、ザス、それ……、違…」
「何が違ぇんだよ」
「お、れが、好き、なのは、ザンザス、だけ……」
「…………、」
一瞬、空気が揺れたような気がした。
手を伸ばす。
ザンザスは、それを拒否せず、ただじっとしていた。
そっと触れた彼の頬は、自分と同じように、涙で濡れていた。
きっと、彼の視界も滲んでいるのだろう。
髪が離される。
力の抜けた足では上手く立っていられなくて、綱吉は床に膝を付いた。
目の前で、彼も崩れ落ちるのがわかった。
強く引き寄せられて、抱き締められる。
珍しく震えている大きな背中に、そっと手を回した。
「……綱吉、綱吉っ! 行くな、行くなっ! ずっと俺の側にいろ! 」
背骨が軋む程に、ぎゅうと力を込められた。
涙が一粒頬を伝って、綱吉は天井を仰いだ。
―――嗚呼、嗚呼、この、愛し方のわからない男が。
精一杯の愛情を注いでくれるこの男が。
愛しくてたまらないんだ。
そっと肩に頭を預けると、遠慮がちに手が乗せられた。
目を閉じる。
―――あちこちが痛い。
でも、きっと本当に痛くてたまらないのは、むしろ彼の方だ。
ザンザスに負けないくらい、綱吉も腕に力を込めた。
この、強いくせに脆い彼を支えてあげたいのだと、素直に思った。
「……ザンザス、ザンザス、愛してる、愛してるよ……」
いくら言っても届かない言葉を、今日も呟いた。
END
「きず」の続き。
まだ続きます。