SHORT U

□別れ
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※「伝わらない」の続き







 愛しているのだと、綱吉は、痣だらけの痛々しい顔で俺に呟いた。

 出来ることなら、素直にその言葉を信じたかった。

自分には綱吉しかいない。
 恨みの心が抜けてしまった自分には、生きる意味がなかった。
それを与えてくれたのが、綱吉だったから。

 綱吉の為に生きようと思った。

 それだけで良かったのに。
 見返りを求めてしまったことが、そもそもの間違いだった。

 自分はすべてを綱吉に捧げた。
綱吉にも、すべてを自分に捧げて欲しかった。

 それはできないと、悲しそうに言った綱吉を、ザンザスは今でもはっきりと思い出せた。

 綱吉の言おうとするところを、ザンザスもよく理解していた。
 綱吉は今や、ただの人ではない。

 偉大なるボンゴレマフィアの、頂点に立つ男だ。
 誰か一人の為に生きることなど、到底出来ないような立場だった。

 わかっていたつもりだった。

諦めた筈だった。

 それでも、好きだと伝える度に、どうしても見返りを期待してしまう。
 部下を思いやる綱吉の心すら我慢ならなかった。

 その瞳が、自分だけを見てくれないことが不満でしかたなかった。

 愛していると囁かれる度、失う時のことを考えてしまう。
 誰よりも大事にしたいのに、失うことを恐れるあまり、つい傷付けてしまう。
 苦しかった。

 いっそのこと、生きる意味をなくした時に死んでしまえたなら良かったのだ。
 誰かを愛する気持ちなんて、自分には不要なものだったのだ。

「つな……よし……」

 腕の中でぐったりと脱力する綱吉を見る度、心の奥深くが冷めていくのを感じた。

 もうしばらくの間、彼が無邪気に笑うのを見ていないような気がする。
 ここ最近の彼は、泣いてばかりいたから。

「つなよし……」

 痣だらけの身体。
 血の滲んだ口元。
 不安定な寝息。

 その、痛々しい綱吉のすべてを、掻き抱いた。

耳元で綱吉が小さくうめく。

 どのくらいそのままでいたか、ザンザスにはよくわからなかった。
 気付いた時には、カーテンの隙間から朝日が入り込んでいた。

 そっと、綱吉の身体をベッドに横たえる。

額に、触れるだけのキスをした。

 最後くらい、優しくしてやりたかった。

「つなよし……」

 もう一度、今度は唇にキスをしてから、ザンザスはゆっくり立ち上がった。

 扉へ向かう足が、いやに重い。
 ドアを開けて吸い込んだ空気は、どこか冷ややかに感じられた。

 後ろ手に扉を閉めると、ザンザスはもう振り返らなかった。



END



あれ。
何やら悲恋チックに……
いやいや、まだ続きます。次辺りから浮上すると思います。

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