SHORT U
□上向き
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※「別れ」の続き
朝起きると、彼がいなかった。
空気が冷たい。
「ザン……ザス……? 」
―――ただ、仕事に行っただけ。
そうに違いないと自分に言い聞かせるものの、嫌な予感は拭い去れない。
慌ててベッドから起き上がると、腰に鈍痛がはしって、思わずその場にしゃがみこんだ。
「ぅ……」
胸が苦しい。
彼に、もう二度と会えないんじゃないかという不安がモヤモヤと渦巻いている。
吐きそうだ、と思った。
「ザンザス……ッ」
自分だけを見てくれと懇願してきた彼を、綱吉は覚えている。
喜びと悲しみが同時に襲ってきたあの感覚も、はっきりと思い出せる。
出来ることなら、自分だってそうしたかった。
彼の為だけに生きたかった。
自分のすべてを、彼にあげたかった。
それが出来なかったのは、綱吉に、他を切り捨てる勇気が無かったからだ。
わけもわからず、涙が溢れた。
景色がグニャグニャと歪む。
ザンザスに会いたかった。
会っても、どうしていいかわからないかもしれない。 それでも、会いたかった。
会って、抱き締めたかった。
むちゃくちゃに抱いて欲しかった。
彼を感じたかった。
これ程までにザンザスに依存していたなんて、自分でも驚きだった。
彼がいなかったら、自分はきっと駄目になる。
―――探しに行こう。
その結論が出るのに、そう時間は掛からなかった。
深呼吸して決意を固めると、綱吉は一気に立ち上がった。
まだ身体のアチコチがギシギシと痛むけれど、さっきよりは気にならない。
新しいワイシャツを取り出して、袖に腕を通す。
ほぼ毎日の癖でネクタイに手を伸ばしたけれど、必要ないかと思い直し、ズボンに手を掛けた。
窓のカーテンを曳く。
外はもう大分明るくなっていた。
行動を起こすなら、早くしなければならない。
最低限必要そうなものだけを鷲掴んで、綱吉はドアを一気に開け放った。
屋敷内はまだシンと静まり返っている。
少しだけ心拍数が上がった気がした。
小さく深呼吸してから、そっと足を踏み出す。
前々から長いと思っていた廊下が、今日は更に長く感じられた。
徐々に速度が上がっていくのを止められない。
ザンザスが自分の元を去ってしまった事は、もはや綱吉の中で確定事項になってしまっていた。
鼻の奥がツンとして、目頭が熱くなる。
涙が出そうになるのを、奥歯をくいしばって耐えた。
―――ザンザスに会うまでは、泣かない。
屋敷から出ると、自分が今手放そうとしているものの大きさに身体が震えた。
引き返すなら、今しかない。
頭ではわかっているのに、綱吉の身体は、今一番欲しいものを知っていた。
自然と足が進む。
もう随分明るくなった空を見上げると、綺麗な青空が広がっていた。
END
だんだんと気分が上向きになってきました。
ここで終わりにしても良いかなと思ったのですが、どうにも釈然としないので、あと一話か二話付け足そうかと思います。
お暇な方はお付き合い頂けると嬉しいなぁ……とかとか。