SHORT U
□再会
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※「上向き」の続き
ザンザスが綱吉の前からいなくなって、既に一ヶ月の月日が流れていた。
ザンザスの日常から喜びというものは消えていたけれど、同時に、悲しみも無ければ、怒りも無かった。
日々は淡々と過ぎていき、ザンザスから、感情というものは欠如し始めていた。
暗殺者として生きていた数年間よりも、綱吉から離れたここ一ヶ月の方が、よっぽどそれらしいのではないかと最近思う。
近くにある、この頃行き付けになっている露店で食材を買うと、そこのオバサンが、贔屓にしてくれているお礼だと言って、果物を一つおまけにくれた。
どういう反応を返せばいいのか分からず戸惑っていると、プッと噴き出される。
「口下手な兄さんだねぇ、」
「…………」
そういえば綱吉にも昔、同じように笑われたことがあったなと思い出す。
あれは確か、二人がそういう関係になってから、初めて一緒に迎えたザンザスの誕生日。
綺麗にラッピングされた包みを差し出されて、今の様に固まってしまった自分を見て、綱吉は大爆笑していた。
それはもう、目尻に涙が浮かぶ程に。
ひとしきり笑った綱吉は、尚もヒィヒィ言いながら、著しく機嫌を損ねたザンザスに向かって、大変余計なお世話なことを言ってくれた。
『そういう時は、ありがとう、って言えばいいんだよ』
その時の綱吉の顔が、思いっきり自分を馬鹿にしていたものだったので、確か、その緩んだ頬を、思い切りつねってやったような気がする。
痛いと喚くその唇を吸って、言われた通りのセリフを吐くと、綱吉は、頬をうっすらと染めながら笑っていた。
思えばあの頃が、二人にとって、一番楽しかったのではないかと思う。
綱吉は、時間をかけて、けれど確実に、ザンザスにとって大切なものを、一つずつ与えてくれた。
綱吉と過ごした時間こそが、ザンザスにとって、何よりも大切な宝だった。
「……兄さん? どうしたんだい? 」
思案に耽っていたザンザスは、オバサンに声を掛けられて、ハッと意識を取り戻した。
「いや、何でもない」と返した後に、綱吉の言葉を思い出す。
しばらく迷った末に、ザンザスは、ゆっくり口を開いた。
「…………これ、ありがとう」
これ、と言ってさっきの果物を振ると、オバサンはパチクリと瞬きをした後、まるで自分の子供を見るような優しい目をして、「どういたしまして」と答えた。
「またいつでもおいで」
そう言って笑うオバサンの顔に、何故か綱吉の顔が重なった。
帰り道、なんとなしに立ち止まって空を見上げると、丁度日が沈むところだった。
細く薄い雲が無数に浮かび、陽の光を受けて、オレンジとピンクの間くらいの色に染まっている。
久しく空なんか眺めていなかったなと、ザンザスは一人心地た。
濃い影が後ろに長くのび、塀に当たって屈折している。
しばらくそうしていると、ふいに、そこに別の影がやってきて重なり、止まった。
自分を見る人の気配を感じ、ザンザスは、ゆっくり頭を前方に向ける。
そうして、ある人物の姿を認めた途端、ザンザスは持っていた紙袋を落としてしまっていた。
おまけの果物がコロコロと転がり、向かいの人物の靴の先に当たって止まる。
彼が、ゆっくりとした動作でそれを拾い上げるのを、ザンザスは夢でも見ている様な気持ちで眺めていた。
一歩、二歩、彼が近付いてくる。
更に近付いて、腕を伸ばせば届く距離までやって来ると、彼は、ザンザスの記憶のままの、あの、頬を染めた笑い方をしながら、はい、と言って果物を差し出してきた。
それを見て、何と言っていいか分からずにいるザンザスに、彼、綱吉は、いつの日かと同じように、全く余計なお世話なことを言って、笑った。
「そういう時は、ありがとう、って言えばいいんだよ」
温かいものが染み出して、ザンザスの視界は、一気にぼやけた。
END
やっと再会した二人。
話が浮上してきたので、段々書きやすくなってきました。
多分次辺りで完結かな……?
ノープランで始めたらエライことに……
話は変わりますが、最近、イタリアに対する知識の無さ加減に悩んでおります……
調べなきゃ駄目ですね、やっぱり……