SHORT U

□再会
1ページ/1ページ


※「上向き」の続き





 ザンザスが綱吉の前からいなくなって、既に一ヶ月の月日が流れていた。

 ザンザスの日常から喜びというものは消えていたけれど、同時に、悲しみも無ければ、怒りも無かった。

 日々は淡々と過ぎていき、ザンザスから、感情というものは欠如し始めていた。
 暗殺者として生きていた数年間よりも、綱吉から離れたここ一ヶ月の方が、よっぽどそれらしいのではないかと最近思う。



 近くにある、この頃行き付けになっている露店で食材を買うと、そこのオバサンが、贔屓にしてくれているお礼だと言って、果物を一つおまけにくれた。

 どういう反応を返せばいいのか分からず戸惑っていると、プッと噴き出される。

「口下手な兄さんだねぇ、」
「…………」


 そういえば綱吉にも昔、同じように笑われたことがあったなと思い出す。

 あれは確か、二人がそういう関係になってから、初めて一緒に迎えたザンザスの誕生日。

 綺麗にラッピングされた包みを差し出されて、今の様に固まってしまった自分を見て、綱吉は大爆笑していた。
 それはもう、目尻に涙が浮かぶ程に。

 ひとしきり笑った綱吉は、尚もヒィヒィ言いながら、著しく機嫌を損ねたザンザスに向かって、大変余計なお世話なことを言ってくれた。

『そういう時は、ありがとう、って言えばいいんだよ』

 その時の綱吉の顔が、思いっきり自分を馬鹿にしていたものだったので、確か、その緩んだ頬を、思い切りつねってやったような気がする。

 痛いと喚くその唇を吸って、言われた通りのセリフを吐くと、綱吉は、頬をうっすらと染めながら笑っていた。

 思えばあの頃が、二人にとって、一番楽しかったのではないかと思う。

 綱吉は、時間をかけて、けれど確実に、ザンザスにとって大切なものを、一つずつ与えてくれた。
 綱吉と過ごした時間こそが、ザンザスにとって、何よりも大切な宝だった。



「……兄さん? どうしたんだい? 」

 思案に耽っていたザンザスは、オバサンに声を掛けられて、ハッと意識を取り戻した。

 「いや、何でもない」と返した後に、綱吉の言葉を思い出す。
 しばらく迷った末に、ザンザスは、ゆっくり口を開いた。

「…………これ、ありがとう」

 これ、と言ってさっきの果物を振ると、オバサンはパチクリと瞬きをした後、まるで自分の子供を見るような優しい目をして、「どういたしまして」と答えた。

「またいつでもおいで」

 そう言って笑うオバサンの顔に、何故か綱吉の顔が重なった。



 帰り道、なんとなしに立ち止まって空を見上げると、丁度日が沈むところだった。
 細く薄い雲が無数に浮かび、陽の光を受けて、オレンジとピンクの間くらいの色に染まっている。

 久しく空なんか眺めていなかったなと、ザンザスは一人心地た。
 濃い影が後ろに長くのび、塀に当たって屈折している。

 しばらくそうしていると、ふいに、そこに別の影がやってきて重なり、止まった。

 自分を見る人の気配を感じ、ザンザスは、ゆっくり頭を前方に向ける。

 そうして、ある人物の姿を認めた途端、ザンザスは持っていた紙袋を落としてしまっていた。

 おまけの果物がコロコロと転がり、向かいの人物の靴の先に当たって止まる。

 彼が、ゆっくりとした動作でそれを拾い上げるのを、ザンザスは夢でも見ている様な気持ちで眺めていた。

 一歩、二歩、彼が近付いてくる。
 更に近付いて、腕を伸ばせば届く距離までやって来ると、彼は、ザンザスの記憶のままの、あの、頬を染めた笑い方をしながら、はい、と言って果物を差し出してきた。


 それを見て、何と言っていいか分からずにいるザンザスに、彼、綱吉は、いつの日かと同じように、全く余計なお世話なことを言って、笑った。

「そういう時は、ありがとう、って言えばいいんだよ」

 温かいものが染み出して、ザンザスの視界は、一気にぼやけた。



END


やっと再会した二人。

 話が浮上してきたので、段々書きやすくなってきました。
多分次辺りで完結かな……?
ノープランで始めたらエライことに……


 話は変わりますが、最近、イタリアに対する知識の無さ加減に悩んでおります……

調べなきゃ駄目ですね、やっぱり……

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ